李登輝氏、帰国―日本人はこの人物をたった一人で戦わせていいのか(付:台湾メディアの感動的な李氏訪日取材レポート)
2009/09/11/Fri
四日から来日していた李登輝氏が十日に帰国した。
今回の来日の目的は講演。東京で坂本龍馬に関する話をした。そしてその後、龍馬の故郷、高知へも足を伸ばした。地元紙はそれを李登輝氏はそこまで「大の龍馬ファン」だと報じたが、私はそれに「物足りなさ」を感じた。いや李登輝氏に対し、「申し訳なさ」を感じたと言うべきか。

高知の龍馬像前で
これまでも李登輝氏は来日のたび、八田與一、新渡戸稲造、松尾芭蕉、後藤新平等々、歴史上の偉人を語ってきた。そして今回は坂本龍馬だ。
その目的は、戦後失われた日本の伝統的な精神、文化や近代国家建設の精神を日本人に伝えるためだと思う。また同時に台湾人にも、近代国家とは何か、あるいは八田、新渡戸のような偉人は台湾の近代化建設のため、いかなる貢献をしたかなどを知らせるためでもある気がする。
以前李登輝氏は総統退任後、残された人生を台湾人、そして日本人を励ますために使うと言った話をしたことがあったが、なぜ台湾人であるこの人は、そこまで日本を気にかけるのか。
それは日本統治時代に生まれ育った元日本人だからでもあろう。台湾と日本を「二つの祖国」と考えているのかも知れない。しかし決してそれだけではないと思う。

元日本人だからと言うだけではない
李登輝氏は世界の歴史に名を刻むべき、スケールの壮大の人物だ。何しろ総統就任以来、東アジアを変え続けてきたのだ。
たとえば戦後の国際社会を困惑させ、そして中国に台湾侵略の口実を与えてきた「一つの中国」なる虚構を打ち破り、台湾を台湾人の国とはっきり位置づけ、それに見合った国内改革を断行。その結果、「中華民国=チャイナ共和国」との「看板」を下ろすまでには行かなかったが、総統直接選挙を成功させるなど、台湾は中国とは別個の独立した民主主義の国であるとの事実を世界に認識させた。

在任中に書いた「台湾の主張」。中国とは異なる
「台湾」の存在を日本など世界に伝えた
中国が李登輝氏に激怒するのもそのためだった。台湾併呑を目指すあの国は、この人物だけは許せないできた。
退任後は「チャイナ」の「看板」下ろし、つまり台湾の国家正常化(台湾憲法制定で台湾国を建国)の運動に取り組んで今日に至っている。

退任後は台湾の正名・制憲・建国を目指す国民運動をリード
そしてそれと同時に日本に対し、増大する中国の軍事的脅威から東アジアを防衛するため、日台が「運命共同体」「生命共同体」であることを繰り返し訴え続けている。「台湾は日本の生命線だ」「台湾が中国に取られれば日本は終わりだ」と。
李登輝氏が最も日本人に伝えたいのは、まさにこれであるはずだ。「かつてのような智恵と勇気に溢れる日本と言う国を取り戻せ」と、日本人を激励しているとしか思えない。
少なくとも、そこまで気が付かなければ、李登輝氏の日本激励の意図を十分に理解したとは言えない。
今回の来日講演でも李登輝氏は、間もなく生まれる民主党政権に対し、「東アジア共同体との枠組みを考える前に、崩れつつある日台関係の再構築と強化に積極的に力を注いでほしい」と提言している。
これについて「台湾が置き去りにされることへの懸念を示した」との報道も見られたが、このメディアは「志」が低すぎるのではないか。李登輝氏が「日本人はこのままでいいのか。中国をあまりにも知らない。国家戦略があまりにも欠如している」と警鐘を鳴らし、日本の覚醒を求めていることに気付いていないかのようだ。
「中国の前で日本は主体意識を」と何度も繰り返す李登輝氏の訴えは、このように日本へはなかなか通じない。もちろん全体から見れば少数だが、李登輝氏の激励により、日本と言う国家、歴史に目覚め、奮起するに至った国民は少なくない。だが「日台生命共同体」の危機的状況を深く認識するにまで至った者は、そのごく一部だというのが私の実感である。
この「生命共同体」における日本のパートナーは台湾だ。しかし李登輝氏の日本激励に感謝する者はいても、台湾激励に立ち上がろうとする者はそう多くない。少なすぎる。
「生命線」すら死語となっている今日、そうした戦略的思考は日本人の間で失われているかにも見える。
一方台湾では、李登輝氏のこうした理念、訴えを真に理解できる者は、日本よりさらに少ない。その理由は多々あるが、その一つとして、李登輝氏の政治的信念、価値観、文化意識が台湾的と言うより日本的であることが挙げられよう。少なくとも戦後の台湾社会を大きく覆ってしまっている「中国的」なものでは断じてない。
李登輝氏はまさにそれを排除しようとしているのだが。
このように見れば、すでに八十七歳にして病身である李登輝氏は、日台のため、さらには東アジアのために、「たった一人で戦い続けている」としか思えないのだ。

日本人に数々のメッセージを残して帰国した李登輝氏
李登輝氏は、日本の若い人たちと話しをするのが何よりも好きだと聞く。そして話す内容はたいてい「日本のためにがんばれ」だ。つまり「あとに続くを信ず」と言うことに違いない。
日本人はその戦いに呼応しなくていいのだろうか。
以下は台湾の中央通訊社(通信社)が九月十日に配信した李登輝氏訪日の取材レポートの日本語訳だ。言わば台湾人記者が見た「李登輝、そして日本」。従来李登輝氏は訪日のたび、中国に気兼ねする日本政府によってさまざまな行動規制を受けてきた。しかしそれでも日本人のため、各地を歩き続けてきたのだ。そうした末での今回の訪日だが、李登輝氏の日本に対する強い思いが伝わってくる一文であり、読んでいて思わず目頭が熱くなった。
五回目の訪日で突破あり 李登輝氏、政治的話題を生き生きと語る
(中央社記者楊明珠/福岡特報)李登輝元総統は台湾時間の十日午前十一時すぎ、曽文恵夫人とともに長栄航空機で福岡空港から帰国。六泊七日の訪日を終えた。今回の訪日は二〇〇〇年に総統退任以来五回目だが、いくつかの突破が見られた。政治的な言葉が最も多かったのが今回だと言える。
四日、彼は東京到着後、晩餐会に百名に上る日本の友人を招いたが、そのなかには森喜朗元首相、与党の自民党議員、そして九月中旬に政権をとる民主党の議員など約二十人も含まれていた。前四回の訪日では、日本の政界要人、議員とはプライベートな形で面会していたが、今回はそれと異なり、公開のパーティーの場で会っている。これは一大突破と言えるだろう。
五日、東京青年会議所の創立六十週年を記念して行われた「新日本創生フォーラム」に出席した。この日のテーマは「この国に誇りと希望を」。彼は明治維新の英雄、坂本龍馬の「船中八策」を中心に、日本の青年たちに提言を行った。講演が終わると、約二千人もの聴衆が割れんばかりの拍手を送った。
彼は日本に対し、日米協調路線を基軸に、中国とは節度ある交流を行うとともに、すでに独立した存在である台湾との協力関係を強化するのが最も望ましいとアピールもしている。台湾と日本は、国家の主体性を持たなければならないとも強調した。つまり坂本龍馬「船中八策」のように、国家運営の方向性を示し、「脱古改新」、クリーンな政治で人民を幸福にしなければならないと言うことだ。
時はあたかも日本の最大野党、民主党が衆議院選挙で大勝をおさめ、中旬には政権を握るところである。日本のメディアは李登輝氏に行った質問の多くは、民主党に対する期待についてだった。
それに対して彼は「民主党が東アジア共同体の理念を重視するのはいいが、アジアでは目下、宗教、文化、経済発展などの面で違いが見られ、欧州共同体のような条件が整っていない。そのため最も好ましいのは先ず台日関係を強化し、日韓のような国家関係にすることだ」と答えた。
また「日本の指導者は日米同盟の重要性を正視しなければならない。たしかに日本は更なる主体性を持って勇気ある主張を行うべきだが、しかしただちに米国から離れ、中国と結盟することはできない。なぜなら中国には多くの不確定要素があるからだ」との見方を示した。
そして「政権を獲得したばかりの政党は通常、人を驚かす主張をするものだが、それが通じるだろうか。それが国家、人民に有益だろうか。為政者はそれを考えながら修正を行っていくものだ」と話した。
李登輝氏は一つの重要な点を指摘している。それは西太平洋での主導権を誰が握るかの問題を日本に考えてもらいたいと言うことだ。日本はどのように日米同盟を運用し、西太平洋での主導権行使に参与できるか考えるべきだと言うのだ。また、日本国民は真剣に憲法改正問題を考えるべきだともアピールした。
台日関係に関して李登輝氏は、「日本は台湾を失えばどうなるかを先ず考えるべきだ」と述べた。日本はだんだん中国の影響を受けつつあるが、もし台日関係を強化しないなら、それは崩壊へと向かうだろうとも指摘した。
ある日本人が匿名で明らかにしたところによると、李登輝氏は今回の訪日に先立ち、やはり日本側から特別な「指図」を事実上受けている。日本では「あまり政治的になるな」と希望されたそうだ。李登輝氏はこの一点を快く思っていない。
李登輝氏は「日本は中国の言うことをあまりにも聞きすぎだ。自主性ある判断をしなければならない」との考えで、「日本が過度の謙虚さで他国に叩頭外交を行えば、国際社会からは絶対に尊敬されない」とたびたび述べていた。
八月の日本での報道によれば、海上自衛隊の遠洋航海艦隊は香港で停泊する予定だったが、八月中旬になり、中国は北京の日本大使館に対し、「敏感な問題がある。時機に照らし同意できない」と伝えた。
聞くところによれば、日本政府が七月、米国に亡命中のラビア・カーディル世界ウイグル会議主席の訪日を受け入れ、そして九月の李登輝氏の訪日に同意したことに、中国が不満を抱いているからだと言う。
李登輝氏は中国政府から「台独ゴッドファーザー」「戦争メーカー」と看做されている。彼が総統退任後、初めて訪日したときの目的は病気治療だった。岡山県倉敷で心臓の手術を受けている。二度目の訪日は若いころの留学先である京都、従軍時に滞在した名古屋などを訪れた。これらの際、日本側は中国の圧力を受け、彼が講演や政治に関する話題に触れることに同意しなかった。
今でも彼は、二〇〇一年の訪日のとき、日本の大臣から「死ぬのに、なぜ日本で死ぬのか」と罵られたことを忘れていない。「このような人間には人道精神がない。なぜ官職に就いたのか」と。(訳註:田中真紀子氏の話らしい)
二〇〇七年に至り、彼は「学術交流と奥の細道の旅」を行い、ようやく東京などで講演を行うことができた。昨年、彼は沖縄に招かれて講演をしている。聴衆は二千人にも達した。沖縄県の現職、前職の知事も堂々と昼食会に出席しており、外交上の突破を果たしたと言えた。
日本では李登輝氏の行くところ、旗を振りながら「万歳!」を叫ぶ「李登輝ファン」の姿をつねに見ることができる。今回、高知空港に着いたときも、子供を抱いた二十歳代の夫婦が、はるばる遠くから車で出迎えに来ていた。
李登輝氏は京都や金沢を訪れたとき、日本の哲学者西田幾多郎の思想を語った。奥の細道を歩いたときには十七世紀の俳人松雄芭蕉の詩句について語り、また日本文化の特質や武士道精神についても話している。今回は坂本龍馬の革新救国の理念を通じ、台日の政治や国際情勢を大いに論じた。
九日、彼は日本の記者から次の訪問の時期を聞かれた際、「日本は台湾人にノービザを実施している。私は平民だから、来たいときに来ることができる」と答えた。
若者たちに強い期待を抱く李登輝氏は、「今回東京青年会議所の厚意の要請で講演を行ったように、若者たちが話を聞きたいと言うのなら、体の状況が許す限り、必ず訪日する」と話している。
しかし八十七歳の李登輝氏自身は、すでに訪日の機会が残り少なくなっていることを十分に知っている。だから今回の訪日では、政治的な話題に関しても、言いたいことを生き生きと語る心境になったようだ。
本ブログ・過去の関連記事
「日本激励」で来日した李登輝氏を「台湾万歳」で出迎える(9/5)
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-872.html
李登輝氏、東京と高知で龍馬を語るー鳩山「東アジア共同体」構想より重要なのは日台関係の強化とも(9/8)
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-873.html
中国は「日本殖民地美化」と罵倒ー李登輝氏「熊本講演」が日本人に問うもの(9/9)
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-874.html
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■ 講師 永山英樹 (台湾研究フォーラム会長・日本李登輝友の会理事)
■ 演題 「東アジア共同体より日台関係の強化」−李登輝元総統の訴えにいかに応えるか
このたび来日した李登輝元総統は講演等で鳩山民主党が外交目標に掲げる「東アジア共同体」より日台関係の強化が重要だのメッセージを発した。それは日本に対する自主外交、国家防衛強化の訴えでもあった。なぜ台湾との関係強化が必要なのか。そもそも「東アジア共同体」とは何であるのか。民主党政権発足で加速されるであろう中国の対日外交攻勢を視野に、今後の国家の在り方について考える。
--------------------
永山英樹(ながやま・ひでき)昭和36年、埼玉県生まれ。同61年、法政大学法学部卒業。著書に『日本の命運は台湾にあり−軍拡中国がある東アジアで』、訳書に『台湾を知る−台灣国民中学歴史教科書』、共著に『台湾と日本交流秘話』『国士 内田良平』など。台湾研究フォーラム会長・日本李登輝友の会理事兼台湾正名推進本部長
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【日 時】 平成21年9月12日(土)午後6時〜8時
【場 所】 文京区民センター2−A
電話:03(3814)6731 住所:東京都文京区本郷4−15−14
※文京シビックのはす向かい
都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩1分
東京メトロ丸の内線・南北線「後楽園駅」徒歩1分
JR「水道橋駅」徒歩10分
【参加費】 会員500円、一般1,000円
【懇親会】 閉会後、会場付近にて。(会費3,500円、学生1,000円)
【申込み】 9月11日までに下記へ。
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FAX: 03-3868-2101
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今回の来日の目的は講演。東京で坂本龍馬に関する話をした。そしてその後、龍馬の故郷、高知へも足を伸ばした。地元紙はそれを李登輝氏はそこまで「大の龍馬ファン」だと報じたが、私はそれに「物足りなさ」を感じた。いや李登輝氏に対し、「申し訳なさ」を感じたと言うべきか。

高知の龍馬像前で
これまでも李登輝氏は来日のたび、八田與一、新渡戸稲造、松尾芭蕉、後藤新平等々、歴史上の偉人を語ってきた。そして今回は坂本龍馬だ。
その目的は、戦後失われた日本の伝統的な精神、文化や近代国家建設の精神を日本人に伝えるためだと思う。また同時に台湾人にも、近代国家とは何か、あるいは八田、新渡戸のような偉人は台湾の近代化建設のため、いかなる貢献をしたかなどを知らせるためでもある気がする。
以前李登輝氏は総統退任後、残された人生を台湾人、そして日本人を励ますために使うと言った話をしたことがあったが、なぜ台湾人であるこの人は、そこまで日本を気にかけるのか。
それは日本統治時代に生まれ育った元日本人だからでもあろう。台湾と日本を「二つの祖国」と考えているのかも知れない。しかし決してそれだけではないと思う。

元日本人だからと言うだけではない
李登輝氏は世界の歴史に名を刻むべき、スケールの壮大の人物だ。何しろ総統就任以来、東アジアを変え続けてきたのだ。
たとえば戦後の国際社会を困惑させ、そして中国に台湾侵略の口実を与えてきた「一つの中国」なる虚構を打ち破り、台湾を台湾人の国とはっきり位置づけ、それに見合った国内改革を断行。その結果、「中華民国=チャイナ共和国」との「看板」を下ろすまでには行かなかったが、総統直接選挙を成功させるなど、台湾は中国とは別個の独立した民主主義の国であるとの事実を世界に認識させた。

在任中に書いた「台湾の主張」。中国とは異なる
「台湾」の存在を日本など世界に伝えた
中国が李登輝氏に激怒するのもそのためだった。台湾併呑を目指すあの国は、この人物だけは許せないできた。
退任後は「チャイナ」の「看板」下ろし、つまり台湾の国家正常化(台湾憲法制定で台湾国を建国)の運動に取り組んで今日に至っている。

退任後は台湾の正名・制憲・建国を目指す国民運動をリード
そしてそれと同時に日本に対し、増大する中国の軍事的脅威から東アジアを防衛するため、日台が「運命共同体」「生命共同体」であることを繰り返し訴え続けている。「台湾は日本の生命線だ」「台湾が中国に取られれば日本は終わりだ」と。
李登輝氏が最も日本人に伝えたいのは、まさにこれであるはずだ。「かつてのような智恵と勇気に溢れる日本と言う国を取り戻せ」と、日本人を激励しているとしか思えない。
少なくとも、そこまで気が付かなければ、李登輝氏の日本激励の意図を十分に理解したとは言えない。
今回の来日講演でも李登輝氏は、間もなく生まれる民主党政権に対し、「東アジア共同体との枠組みを考える前に、崩れつつある日台関係の再構築と強化に積極的に力を注いでほしい」と提言している。
これについて「台湾が置き去りにされることへの懸念を示した」との報道も見られたが、このメディアは「志」が低すぎるのではないか。李登輝氏が「日本人はこのままでいいのか。中国をあまりにも知らない。国家戦略があまりにも欠如している」と警鐘を鳴らし、日本の覚醒を求めていることに気付いていないかのようだ。
「中国の前で日本は主体意識を」と何度も繰り返す李登輝氏の訴えは、このように日本へはなかなか通じない。もちろん全体から見れば少数だが、李登輝氏の激励により、日本と言う国家、歴史に目覚め、奮起するに至った国民は少なくない。だが「日台生命共同体」の危機的状況を深く認識するにまで至った者は、そのごく一部だというのが私の実感である。
この「生命共同体」における日本のパートナーは台湾だ。しかし李登輝氏の日本激励に感謝する者はいても、台湾激励に立ち上がろうとする者はそう多くない。少なすぎる。
「生命線」すら死語となっている今日、そうした戦略的思考は日本人の間で失われているかにも見える。
一方台湾では、李登輝氏のこうした理念、訴えを真に理解できる者は、日本よりさらに少ない。その理由は多々あるが、その一つとして、李登輝氏の政治的信念、価値観、文化意識が台湾的と言うより日本的であることが挙げられよう。少なくとも戦後の台湾社会を大きく覆ってしまっている「中国的」なものでは断じてない。
李登輝氏はまさにそれを排除しようとしているのだが。
このように見れば、すでに八十七歳にして病身である李登輝氏は、日台のため、さらには東アジアのために、「たった一人で戦い続けている」としか思えないのだ。

日本人に数々のメッセージを残して帰国した李登輝氏
李登輝氏は、日本の若い人たちと話しをするのが何よりも好きだと聞く。そして話す内容はたいてい「日本のためにがんばれ」だ。つまり「あとに続くを信ず」と言うことに違いない。
日本人はその戦いに呼応しなくていいのだろうか。
以下は台湾の中央通訊社(通信社)が九月十日に配信した李登輝氏訪日の取材レポートの日本語訳だ。言わば台湾人記者が見た「李登輝、そして日本」。従来李登輝氏は訪日のたび、中国に気兼ねする日本政府によってさまざまな行動規制を受けてきた。しかしそれでも日本人のため、各地を歩き続けてきたのだ。そうした末での今回の訪日だが、李登輝氏の日本に対する強い思いが伝わってくる一文であり、読んでいて思わず目頭が熱くなった。
五回目の訪日で突破あり 李登輝氏、政治的話題を生き生きと語る
(中央社記者楊明珠/福岡特報)李登輝元総統は台湾時間の十日午前十一時すぎ、曽文恵夫人とともに長栄航空機で福岡空港から帰国。六泊七日の訪日を終えた。今回の訪日は二〇〇〇年に総統退任以来五回目だが、いくつかの突破が見られた。政治的な言葉が最も多かったのが今回だと言える。
四日、彼は東京到着後、晩餐会に百名に上る日本の友人を招いたが、そのなかには森喜朗元首相、与党の自民党議員、そして九月中旬に政権をとる民主党の議員など約二十人も含まれていた。前四回の訪日では、日本の政界要人、議員とはプライベートな形で面会していたが、今回はそれと異なり、公開のパーティーの場で会っている。これは一大突破と言えるだろう。
五日、東京青年会議所の創立六十週年を記念して行われた「新日本創生フォーラム」に出席した。この日のテーマは「この国に誇りと希望を」。彼は明治維新の英雄、坂本龍馬の「船中八策」を中心に、日本の青年たちに提言を行った。講演が終わると、約二千人もの聴衆が割れんばかりの拍手を送った。
彼は日本に対し、日米協調路線を基軸に、中国とは節度ある交流を行うとともに、すでに独立した存在である台湾との協力関係を強化するのが最も望ましいとアピールもしている。台湾と日本は、国家の主体性を持たなければならないとも強調した。つまり坂本龍馬「船中八策」のように、国家運営の方向性を示し、「脱古改新」、クリーンな政治で人民を幸福にしなければならないと言うことだ。
時はあたかも日本の最大野党、民主党が衆議院選挙で大勝をおさめ、中旬には政権を握るところである。日本のメディアは李登輝氏に行った質問の多くは、民主党に対する期待についてだった。
それに対して彼は「民主党が東アジア共同体の理念を重視するのはいいが、アジアでは目下、宗教、文化、経済発展などの面で違いが見られ、欧州共同体のような条件が整っていない。そのため最も好ましいのは先ず台日関係を強化し、日韓のような国家関係にすることだ」と答えた。
また「日本の指導者は日米同盟の重要性を正視しなければならない。たしかに日本は更なる主体性を持って勇気ある主張を行うべきだが、しかしただちに米国から離れ、中国と結盟することはできない。なぜなら中国には多くの不確定要素があるからだ」との見方を示した。
そして「政権を獲得したばかりの政党は通常、人を驚かす主張をするものだが、それが通じるだろうか。それが国家、人民に有益だろうか。為政者はそれを考えながら修正を行っていくものだ」と話した。
李登輝氏は一つの重要な点を指摘している。それは西太平洋での主導権を誰が握るかの問題を日本に考えてもらいたいと言うことだ。日本はどのように日米同盟を運用し、西太平洋での主導権行使に参与できるか考えるべきだと言うのだ。また、日本国民は真剣に憲法改正問題を考えるべきだともアピールした。
台日関係に関して李登輝氏は、「日本は台湾を失えばどうなるかを先ず考えるべきだ」と述べた。日本はだんだん中国の影響を受けつつあるが、もし台日関係を強化しないなら、それは崩壊へと向かうだろうとも指摘した。
ある日本人が匿名で明らかにしたところによると、李登輝氏は今回の訪日に先立ち、やはり日本側から特別な「指図」を事実上受けている。日本では「あまり政治的になるな」と希望されたそうだ。李登輝氏はこの一点を快く思っていない。
李登輝氏は「日本は中国の言うことをあまりにも聞きすぎだ。自主性ある判断をしなければならない」との考えで、「日本が過度の謙虚さで他国に叩頭外交を行えば、国際社会からは絶対に尊敬されない」とたびたび述べていた。
八月の日本での報道によれば、海上自衛隊の遠洋航海艦隊は香港で停泊する予定だったが、八月中旬になり、中国は北京の日本大使館に対し、「敏感な問題がある。時機に照らし同意できない」と伝えた。
聞くところによれば、日本政府が七月、米国に亡命中のラビア・カーディル世界ウイグル会議主席の訪日を受け入れ、そして九月の李登輝氏の訪日に同意したことに、中国が不満を抱いているからだと言う。
李登輝氏は中国政府から「台独ゴッドファーザー」「戦争メーカー」と看做されている。彼が総統退任後、初めて訪日したときの目的は病気治療だった。岡山県倉敷で心臓の手術を受けている。二度目の訪日は若いころの留学先である京都、従軍時に滞在した名古屋などを訪れた。これらの際、日本側は中国の圧力を受け、彼が講演や政治に関する話題に触れることに同意しなかった。
今でも彼は、二〇〇一年の訪日のとき、日本の大臣から「死ぬのに、なぜ日本で死ぬのか」と罵られたことを忘れていない。「このような人間には人道精神がない。なぜ官職に就いたのか」と。(訳註:田中真紀子氏の話らしい)
二〇〇七年に至り、彼は「学術交流と奥の細道の旅」を行い、ようやく東京などで講演を行うことができた。昨年、彼は沖縄に招かれて講演をしている。聴衆は二千人にも達した。沖縄県の現職、前職の知事も堂々と昼食会に出席しており、外交上の突破を果たしたと言えた。
日本では李登輝氏の行くところ、旗を振りながら「万歳!」を叫ぶ「李登輝ファン」の姿をつねに見ることができる。今回、高知空港に着いたときも、子供を抱いた二十歳代の夫婦が、はるばる遠くから車で出迎えに来ていた。
李登輝氏は京都や金沢を訪れたとき、日本の哲学者西田幾多郎の思想を語った。奥の細道を歩いたときには十七世紀の俳人松雄芭蕉の詩句について語り、また日本文化の特質や武士道精神についても話している。今回は坂本龍馬の革新救国の理念を通じ、台日の政治や国際情勢を大いに論じた。
九日、彼は日本の記者から次の訪問の時期を聞かれた際、「日本は台湾人にノービザを実施している。私は平民だから、来たいときに来ることができる」と答えた。
若者たちに強い期待を抱く李登輝氏は、「今回東京青年会議所の厚意の要請で講演を行ったように、若者たちが話を聞きたいと言うのなら、体の状況が許す限り、必ず訪日する」と話している。
しかし八十七歳の李登輝氏自身は、すでに訪日の機会が残り少なくなっていることを十分に知っている。だから今回の訪日では、政治的な話題に関しても、言いたいことを生き生きと語る心境になったようだ。
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「日本激励」で来日した李登輝氏を「台湾万歳」で出迎える(9/5)
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【日 時】 平成21年9月12日(土)午後6時〜8時
【場 所】 文京区民センター2−A
電話:03(3814)6731 住所:東京都文京区本郷4−15−14
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