日台尖閣騒動のその後―海保の名誉を犠牲にした事勿れ主義の齎したもの
2009/04/05/Sun
■領海侵犯船員たちへの補償が終わる
台湾で一般にはさほど話題にならなかったが、日本の臆病な外交姿勢の結果を示すニュースが四月三日に見られた。
昨年六月十日、尖閣諸島沖で領海侵犯を行った台湾遊漁船「聯合号」が海上保安庁の巡視船と接触して沈没した問題である。「聯合号」に乗っていた船長に続き、他の船員、乗客も日本側から賠償金を十日までに受け取ることとなり、船長らが三日、問題解決のため尽力してくれた台北県の周錫瑋県長(知事)のため、感謝の茶会を催したと言うのだ。
■反日キャンペーンを受けて萎縮
ここであの事件を振り返ろう。
第十一管区海保本部は何鴻義船長の身柄を拘束、業務上過失往来危険罪と業務上過失傷害罪で書類送致はしたものの、巡視船側にも十分な船間距離を確保せず、引き波を起こして接触を引き起こしたとし、十五日になって那須秀雄本部長が記者会見で「相手船を沈没させ、船長を負傷させてしまい遺憾。お詫び申し上げる」と述べ、頭を下げた。

謝罪をさせられた那須本部長
那須本部長にそこまでさせた背景には、外省人(在台中国人)の政治勢力によるヒステリックな反日キャンペーンで台湾政界が騒然としていた状況があった。しかし頭を下げただけでは、騒動は治まらなかった。

反日狂奔を受け、国会では行政院長(首相)まで「開戦も排除せず」と言わされた
■日本側の謝罪で終わった尖閣騒動
それどころか「『遺憾』だけでは謝罪になっていない」などと反日はエスカレートするばかり。結局は二十日、那須本部長の代理が何鴻義船長を訪れ、テレビカメラの前であらためて丁重極まりない謝罪文を手交、賠償にも応じることを表明した。欧鴻錬外交部長(外相)も「日本側の善意を歓迎、肯定する」とするなど満足の意を示し、ようやく問題は落着したのだった。
ちなみに事件直後からこの時まで、日本に対して船長の釈放、謝罪要求など、一貫して船長の後ろ盾となり、反日パフォーマンスを展開したのが周錫瑋県長なのである。かつて烏来の高砂義勇隊記念碑の撤去問題で強硬な反日姿勢を見せたのもこの人物だ。

那須本部長の代理からの謝罪文を受け取った何鴻義船長(中央)。左が「後
見人」を務めた周錫瑋県長
■騒動の裏にあった在台中国人の思惑とは
反日で得点を稼ごうとした同県長らの狙いは、台湾社会への中華ナショナリズムの扶植のためだったのか。それとも中国への忠誠心の表明のためだったのか。中国人の引き起こす尖閣騒動には、つねにそのような思惑が漂っているかに見えるが。
もっとも、いたずらに対日関係を損なうこれら勢力の反理性的な言動に、一般の台湾人は眉をひそめ、そうした不満が国民党政権の支持率低下の一因となったとの指摘もあった。
■福田首相の意思を報じた台湾紙
台湾紙「自由時報」は二十一日、「日本側の謝罪は、台日両政府の最高レベルでの直接のやり取りによるもの。日本側が自ら謝罪をする提案してきた」との総統府関係者の話を報じている。そして「最高レベル」とは、馬英九総統と福田康夫首相のことらしい。
一方、日本側の謝罪による問題解決は、中国の介入を防ぐための措置だったと伝えた日本のメディアもあった。
■犠牲にされた海保本部の無念はいかばかり
しかし体を張って領海を守る那須本部長ら第十一管区海保本部の胸中はいかばかりだっただろう。
「本部長が記者会見で船長に謝罪」との信じがたい報道に接した私は当時、同本部に電話で確認したところ、応対に出た広報担当の職員は「こちらにも過失があったので国民に謝罪しただけだ」と説明していた。ところが実際に事実を確認してもらったところ、「船長に謝罪した」「船長の領海侵犯には言及しなかった」ことが判明した。職員もまた「まさか」と驚いたようで、落胆の気持ちが痛いほど伝わってきた。
中国による問題の複雑化を恐れる事勿れ主義の日本政府は、我が那須本部長及び海保の名誉を犠牲にしたのだった。
■「大国日本」と戦い男を上げた台北県知事
さて三日の茶会では、何鴻義船長が「小さな漁民が日本のような大国に補償を求めるなど考えられなかった。幸い県長らから迫力ある協力を得、持つべき権益と尊厳を獲得できた」とし、「周県長の再選を支持する」と表明して見せた。
地元の漁会(漁協)幹部は「台湾の漁民はこれまで、釣魚台海域で何度も日本側から侮られてきた。百日以上も勾留されても何の補償も得られなかった。聯合号事件は有史以来、初めて地方政府の協力の下で謝罪と賠償を得たケースだ。周県長は実際の行動で漁民を守ってくれた」と語っている。この日漁民たちは感謝の言葉を書いた横断幕を漁船に掲げ、周錫瑋県長を歓迎した。

「周県長、県政府に感謝」との横断幕を掲げる漁民
■日本の主張から説得力を奪われないか
このように漁民の英雄となった周錫瑋県長は「日本が県内の漁船と衝突したと聞いて憤った。そして県長として県民のため、徹底的にやろうと決めた」と語り、「釣魚台は台湾のものだ!釣魚台は我々のものだ!」と叫んで、大きな拍手を浴びた。
時事通信によると「海保が台湾側の関係者計16人に支払った賠償金は総額1300万台湾ドル(約3000万円)余とみられ、大半が船長に支払われた」と言う。もちろんそれは国民の血税である。
以上が事件の最終的な結末だが、これでよかったのだろうか。相手と事を荒立てまいと弱みを見せれば、かえって事は荒立てられるものなのだ。
■台湾人は中国人とは異なるのだ
日本の尖閣諸島領有の主張も。説得力を大きく殺がれたと思う。そしてそれはまた日本への信頼感の低下にも繋がりかねない。
日本側には、在台中国人には馬鹿騒ぎを好き放題やらせるとの選択肢もあったのだ。
台湾人は従来正確な情報を伝えられて来なかったものの、そもそも中国人とは異なり、領土拡張の野心はない。その理性ある人々に対し、中国=台湾の領有権の主張が中華ナショナリズムの生んだデッチ上げだったことを証明するには、あのような反日狂騒はまさに好機だったのだが、それを逃してしまったところに事勿れ主義の愚かさがある。

台湾でも70年まで、国定教科書では尖閣諸島を沖縄の一部として表記していた
中国人が挑発する尖閣諸島の領有争いには、日本と台湾の分断と言う動機があることも忘れてはならない。
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台湾で一般にはさほど話題にならなかったが、日本の臆病な外交姿勢の結果を示すニュースが四月三日に見られた。
昨年六月十日、尖閣諸島沖で領海侵犯を行った台湾遊漁船「聯合号」が海上保安庁の巡視船と接触して沈没した問題である。「聯合号」に乗っていた船長に続き、他の船員、乗客も日本側から賠償金を十日までに受け取ることとなり、船長らが三日、問題解決のため尽力してくれた台北県の周錫瑋県長(知事)のため、感謝の茶会を催したと言うのだ。
■反日キャンペーンを受けて萎縮
ここであの事件を振り返ろう。
第十一管区海保本部は何鴻義船長の身柄を拘束、業務上過失往来危険罪と業務上過失傷害罪で書類送致はしたものの、巡視船側にも十分な船間距離を確保せず、引き波を起こして接触を引き起こしたとし、十五日になって那須秀雄本部長が記者会見で「相手船を沈没させ、船長を負傷させてしまい遺憾。お詫び申し上げる」と述べ、頭を下げた。

謝罪をさせられた那須本部長
那須本部長にそこまでさせた背景には、外省人(在台中国人)の政治勢力によるヒステリックな反日キャンペーンで台湾政界が騒然としていた状況があった。しかし頭を下げただけでは、騒動は治まらなかった。

反日狂奔を受け、国会では行政院長(首相)まで「開戦も排除せず」と言わされた
■日本側の謝罪で終わった尖閣騒動
それどころか「『遺憾』だけでは謝罪になっていない」などと反日はエスカレートするばかり。結局は二十日、那須本部長の代理が何鴻義船長を訪れ、テレビカメラの前であらためて丁重極まりない謝罪文を手交、賠償にも応じることを表明した。欧鴻錬外交部長(外相)も「日本側の善意を歓迎、肯定する」とするなど満足の意を示し、ようやく問題は落着したのだった。
ちなみに事件直後からこの時まで、日本に対して船長の釈放、謝罪要求など、一貫して船長の後ろ盾となり、反日パフォーマンスを展開したのが周錫瑋県長なのである。かつて烏来の高砂義勇隊記念碑の撤去問題で強硬な反日姿勢を見せたのもこの人物だ。

那須本部長の代理からの謝罪文を受け取った何鴻義船長(中央)。左が「後
見人」を務めた周錫瑋県長
■騒動の裏にあった在台中国人の思惑とは
反日で得点を稼ごうとした同県長らの狙いは、台湾社会への中華ナショナリズムの扶植のためだったのか。それとも中国への忠誠心の表明のためだったのか。中国人の引き起こす尖閣騒動には、つねにそのような思惑が漂っているかに見えるが。
もっとも、いたずらに対日関係を損なうこれら勢力の反理性的な言動に、一般の台湾人は眉をひそめ、そうした不満が国民党政権の支持率低下の一因となったとの指摘もあった。
■福田首相の意思を報じた台湾紙
台湾紙「自由時報」は二十一日、「日本側の謝罪は、台日両政府の最高レベルでの直接のやり取りによるもの。日本側が自ら謝罪をする提案してきた」との総統府関係者の話を報じている。そして「最高レベル」とは、馬英九総統と福田康夫首相のことらしい。
一方、日本側の謝罪による問題解決は、中国の介入を防ぐための措置だったと伝えた日本のメディアもあった。
■犠牲にされた海保本部の無念はいかばかり
しかし体を張って領海を守る那須本部長ら第十一管区海保本部の胸中はいかばかりだっただろう。
「本部長が記者会見で船長に謝罪」との信じがたい報道に接した私は当時、同本部に電話で確認したところ、応対に出た広報担当の職員は「こちらにも過失があったので国民に謝罪しただけだ」と説明していた。ところが実際に事実を確認してもらったところ、「船長に謝罪した」「船長の領海侵犯には言及しなかった」ことが判明した。職員もまた「まさか」と驚いたようで、落胆の気持ちが痛いほど伝わってきた。
中国による問題の複雑化を恐れる事勿れ主義の日本政府は、我が那須本部長及び海保の名誉を犠牲にしたのだった。
■「大国日本」と戦い男を上げた台北県知事
さて三日の茶会では、何鴻義船長が「小さな漁民が日本のような大国に補償を求めるなど考えられなかった。幸い県長らから迫力ある協力を得、持つべき権益と尊厳を獲得できた」とし、「周県長の再選を支持する」と表明して見せた。
地元の漁会(漁協)幹部は「台湾の漁民はこれまで、釣魚台海域で何度も日本側から侮られてきた。百日以上も勾留されても何の補償も得られなかった。聯合号事件は有史以来、初めて地方政府の協力の下で謝罪と賠償を得たケースだ。周県長は実際の行動で漁民を守ってくれた」と語っている。この日漁民たちは感謝の言葉を書いた横断幕を漁船に掲げ、周錫瑋県長を歓迎した。

「周県長、県政府に感謝」との横断幕を掲げる漁民
■日本の主張から説得力を奪われないか
このように漁民の英雄となった周錫瑋県長は「日本が県内の漁船と衝突したと聞いて憤った。そして県長として県民のため、徹底的にやろうと決めた」と語り、「釣魚台は台湾のものだ!釣魚台は我々のものだ!」と叫んで、大きな拍手を浴びた。
時事通信によると「海保が台湾側の関係者計16人に支払った賠償金は総額1300万台湾ドル(約3000万円)余とみられ、大半が船長に支払われた」と言う。もちろんそれは国民の血税である。
以上が事件の最終的な結末だが、これでよかったのだろうか。相手と事を荒立てまいと弱みを見せれば、かえって事は荒立てられるものなのだ。
■台湾人は中国人とは異なるのだ
日本の尖閣諸島領有の主張も。説得力を大きく殺がれたと思う。そしてそれはまた日本への信頼感の低下にも繋がりかねない。
日本側には、在台中国人には馬鹿騒ぎを好き放題やらせるとの選択肢もあったのだ。
台湾人は従来正確な情報を伝えられて来なかったものの、そもそも中国人とは異なり、領土拡張の野心はない。その理性ある人々に対し、中国=台湾の領有権の主張が中華ナショナリズムの生んだデッチ上げだったことを証明するには、あのような反日狂騒はまさに好機だったのだが、それを逃してしまったところに事勿れ主義の愚かさがある。

台湾でも70年まで、国定教科書では尖閣諸島を沖縄の一部として表記していた
中国人が挑発する尖閣諸島の領有争いには、日本と台湾の分断と言う動機があることも忘れてはならない。
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