日本「駐台湾大使」が語る馬英九政権への不安
2008/07/07/Mon
台湾の遊漁船が尖閣海域に侵入し、海上保安庁の巡視船と衝突、沈没したことで発生した台湾政界の反日騒動が「一段落」したと言うことで、台湾紙「自由時報」が七月七日、日本の駐台湾大使に相当する池田維・交流協会台北事務所長との単独インタビュー記事を掲載しているので、一部を抄訳して紹介したい。ここで今後の日台関係の上における不安な情勢の一端が明らかになるかも知れない。なお池田氏は七月十日に離任する。

池田維大使
―――沈没事件は任期中最大の事件だったのでは
事件発生の六月十日、夏立言外交部次長と面会した。夏次長は尖閣諸島の主権を主張したが、私も日本は国際法上、一八九五年以来主権を擁しているとし、台湾の主張は受け入れらないと伝えた。しかし主権問題と一緒にしては事件は解決しにくいので、主権争議を棚上げし、ともに解決のため努力することとなった。
―――主権争議を棚上げしたからには、その海域における漁業権問題での協調空間はあるのか
個人的にはあると思う。日本と台湾は漁業協定を結ぶべきだ。すでに十五回の交渉があったが、それぞれの主張の隔たりは大きい。しかし今回のような事件の発生を防ぐには、隔たりを縮めなくては。日本は日台間の中間で線を引きたいと考えているが、台湾の漁民はかつて、日本の海域で操業してきた。台湾海域では漁獲量に限界があるからか。だが双方が努力を継続すれば、いい解決方法は見つかるだろう。
―――あなたは民進党政府時代に就任し、国民党政府発足から二ヶ月目で離任するが、この変化をどう見るか。とくに日台関係の変化は
日本政府はどのような政権とも友好関係を築くことができるし、協力を希望している。日本にとって台湾は重要なパートナーなのだ。
しかし今回の事件が発生したのは新政権発足から三週間目で、台湾のどの部門と交渉すれば解決しやすいかがわからなかった。三年前に李傑国防部長と王金平立法院長が軍艦で尖閣海域に入った事件の時は、複数の個人的ルートで交渉できた。
―――事件当時、日本のマスコミでは馬政府への批判が多く、「中華帝国」「仇日」と言った文字まで飛び出した
日本人の新政権への見方はたしかにさまざまだが、馬政権は反日ではないと思う。しかし注視するべきは、台湾の政界のある一部に反日の傾向があることで、この問題が長引けば、台湾世論での日本への悪印象が高まるかもしれなかった。そこで我々は迅速に解決することにした。
六月十日には中国は早速「中国台湾」の漁船が沈没したとの声明を出したので、私は事件が長引けば日台関係を損なうと判断した。これは東京の関係者も一致していた。日台関係の安定した発展は日台にとって共同の利益だ。
―――この一ヶ月で台湾と中国の関係が大きく進展しているが
基本的には中国と台湾の課題であり、日本はずっと一切の争議が平和的に解決されることを歓迎している。しかし中国は台湾のWHO参加の問題で妥協するだろうか。台湾と国交を持つ国に対し、これまでとは違った措置をとるだろうか。更に重要なのは、中国は将来軍拡面で変化があるかどうかだ。中国の軍事拡張は台湾だけの問題ではない。日本もこれまで軍拡の不透明性に憂慮を表明してきた。日本は中国が責任ある大国となるか、ただ自己の覇権だけを追及していくかに注意を払っている。
―――台湾のWHO参加問題では主権や名称の矮小化が問題になっているが
台湾が国際組織に適切な形で参与することは国際社会にとっても利益になる。名称の問題に関しては、私は基本的には台湾の二千三百万人の人民が討論して決めるべきだと考える。なぜなら台湾はすでに民主国家になっているからだ。
―――これまで米日は地域の安定のため、陳水扁政府に(中国を)挑発するなと求めてきた。馬政府に対してはどうか
民進党政権は日米安保条約に頼って台湾の安保を考えてきたが、現在の国民党政権は両岸関係の改善を求めている。そして同時に日本や米国との関係を重視している。しかしそのどちらを優先しているかは、私にはよくわからない。
―――馬政府への期待やアピールは
馬政権は日本との関係で、なお努力すべき空間がある。日本と台湾は投資促進のための協定に関して協議してきたが、遠くない将来において期待されるのは、FTAの締結だ。これについても積極的に考慮するべきだ。
―――陳水扁政府は米日との意思疎通の面では、全部ではないとしても事前通知を行っていたが、馬政府が中国との協議について米日に事前に説明を行っていないと言うのは本当か
両岸関係であれ日本や米国との関係であれ、重要なことの関しては充分な意思疎通があればお互いが驚くこともないし、日台の相互信頼関係もさらに強まるだろう。
台湾で最大の発行部数を誇る「自由時報」だが、同紙はこれまで馬英九政権が台湾人意識を放棄して中華民族主義に傾き、中国との関係改善を急いで日米陣営から離れて行くことに強い懸念を表明し続けている。そして今回のインタビューで、その懸念が現実のものであることを日本の「大使」が裏付けた格好だ。「大使」の話からもわかるように、日本と台湾との信頼関係は日米安保条約による台湾防衛(所謂周辺有事の「周辺」には台湾が含まれている)の「約束」に基づくものであり、その信頼関係は李登輝政権、民進党政権と言った台湾人政権の時代に強化されてきたわけだが、その関係が今、馬英九=中国人政権によって揺らぎつつあると言うことだ。
日本人が必ずしも強い関心を寄せているとは言えない日台関係の面から、じつは日本の安全保障が大きく揺らぎ始めていると言う現実を忘れてはならない。
■「自由時報」インタビュー記事 (漢語)
日本駐台代表池田維:馬政權對日關係 還有努力空間
http://www.libertytimes.com.tw/2008/new/jul/7/today-p5.htm
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池田維大使
―――沈没事件は任期中最大の事件だったのでは
事件発生の六月十日、夏立言外交部次長と面会した。夏次長は尖閣諸島の主権を主張したが、私も日本は国際法上、一八九五年以来主権を擁しているとし、台湾の主張は受け入れらないと伝えた。しかし主権問題と一緒にしては事件は解決しにくいので、主権争議を棚上げし、ともに解決のため努力することとなった。
―――主権争議を棚上げしたからには、その海域における漁業権問題での協調空間はあるのか
個人的にはあると思う。日本と台湾は漁業協定を結ぶべきだ。すでに十五回の交渉があったが、それぞれの主張の隔たりは大きい。しかし今回のような事件の発生を防ぐには、隔たりを縮めなくては。日本は日台間の中間で線を引きたいと考えているが、台湾の漁民はかつて、日本の海域で操業してきた。台湾海域では漁獲量に限界があるからか。だが双方が努力を継続すれば、いい解決方法は見つかるだろう。
―――あなたは民進党政府時代に就任し、国民党政府発足から二ヶ月目で離任するが、この変化をどう見るか。とくに日台関係の変化は
日本政府はどのような政権とも友好関係を築くことができるし、協力を希望している。日本にとって台湾は重要なパートナーなのだ。
しかし今回の事件が発生したのは新政権発足から三週間目で、台湾のどの部門と交渉すれば解決しやすいかがわからなかった。三年前に李傑国防部長と王金平立法院長が軍艦で尖閣海域に入った事件の時は、複数の個人的ルートで交渉できた。
―――事件当時、日本のマスコミでは馬政府への批判が多く、「中華帝国」「仇日」と言った文字まで飛び出した
日本人の新政権への見方はたしかにさまざまだが、馬政権は反日ではないと思う。しかし注視するべきは、台湾の政界のある一部に反日の傾向があることで、この問題が長引けば、台湾世論での日本への悪印象が高まるかもしれなかった。そこで我々は迅速に解決することにした。
六月十日には中国は早速「中国台湾」の漁船が沈没したとの声明を出したので、私は事件が長引けば日台関係を損なうと判断した。これは東京の関係者も一致していた。日台関係の安定した発展は日台にとって共同の利益だ。
―――この一ヶ月で台湾と中国の関係が大きく進展しているが
基本的には中国と台湾の課題であり、日本はずっと一切の争議が平和的に解決されることを歓迎している。しかし中国は台湾のWHO参加の問題で妥協するだろうか。台湾と国交を持つ国に対し、これまでとは違った措置をとるだろうか。更に重要なのは、中国は将来軍拡面で変化があるかどうかだ。中国の軍事拡張は台湾だけの問題ではない。日本もこれまで軍拡の不透明性に憂慮を表明してきた。日本は中国が責任ある大国となるか、ただ自己の覇権だけを追及していくかに注意を払っている。
―――台湾のWHO参加問題では主権や名称の矮小化が問題になっているが
台湾が国際組織に適切な形で参与することは国際社会にとっても利益になる。名称の問題に関しては、私は基本的には台湾の二千三百万人の人民が討論して決めるべきだと考える。なぜなら台湾はすでに民主国家になっているからだ。
―――これまで米日は地域の安定のため、陳水扁政府に(中国を)挑発するなと求めてきた。馬政府に対してはどうか
民進党政権は日米安保条約に頼って台湾の安保を考えてきたが、現在の国民党政権は両岸関係の改善を求めている。そして同時に日本や米国との関係を重視している。しかしそのどちらを優先しているかは、私にはよくわからない。
―――馬政府への期待やアピールは
馬政権は日本との関係で、なお努力すべき空間がある。日本と台湾は投資促進のための協定に関して協議してきたが、遠くない将来において期待されるのは、FTAの締結だ。これについても積極的に考慮するべきだ。
―――陳水扁政府は米日との意思疎通の面では、全部ではないとしても事前通知を行っていたが、馬政府が中国との協議について米日に事前に説明を行っていないと言うのは本当か
両岸関係であれ日本や米国との関係であれ、重要なことの関しては充分な意思疎通があればお互いが驚くこともないし、日台の相互信頼関係もさらに強まるだろう。
台湾で最大の発行部数を誇る「自由時報」だが、同紙はこれまで馬英九政権が台湾人意識を放棄して中華民族主義に傾き、中国との関係改善を急いで日米陣営から離れて行くことに強い懸念を表明し続けている。そして今回のインタビューで、その懸念が現実のものであることを日本の「大使」が裏付けた格好だ。「大使」の話からもわかるように、日本と台湾との信頼関係は日米安保条約による台湾防衛(所謂周辺有事の「周辺」には台湾が含まれている)の「約束」に基づくものであり、その信頼関係は李登輝政権、民進党政権と言った台湾人政権の時代に強化されてきたわけだが、その関係が今、馬英九=中国人政権によって揺らぎつつあると言うことだ。
日本人が必ずしも強い関心を寄せているとは言えない日台関係の面から、じつは日本の安全保障が大きく揺らぎ始めていると言う現実を忘れてはならない。
■「自由時報」インタビュー記事 (漢語)
日本駐台代表池田維:馬政權對日關係 還有努力空間
http://www.libertytimes.com.tw/2008/new/jul/7/today-p5.htm
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