岩波『広辞苑』の中国傾斜の歩み―宣伝に迎合・抗議に抵抗!版を重ねるごとに悪化する理由は
2017/11/26/Sun
「台湾は中国領土の不可分の一部」とする中国の「一つの中国」の主張・宣伝はフィクションである。ところが日本では、政府が一九七二年の日中共同声明で、台湾に拠る中華民国政府ではなく中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府」だと承認したため、「台湾を中国領土」と認めろとの中国の要求を政府が受け入れたとする誤解が拡大した。当時政府は「台湾を中国領土とは承認しなかった」と繰り返し説明したに関わらず、マスコミなどは中国に迎合することに熱中し、中国地図に台湾を含める等々、「一つの中国」との認識を広げてしまった。ただ幸いここ十数年来、「一つの台湾、一つの中国」との現状への国民の理解の深化や、それにともなうマスコミの台湾報道是正の要求運動の高まりもあり、その手の誤報は減少傾向にはある。しかしそれでも、いまだ「一つの中国」の考えに固執し続ける一つが、日本を代表する辞書として、社会に大きな影響力を持つ岩波書店の『広辞苑』だ。
たとえば最新の第六版(二〇〇八年一月第一刷発行)は、目下第八刷まで出ているが、それを開けば次の如き誤記があるのがわかる。
1、「明末清初、鄭成功がオランダ植民者を追い出して中国領となった」(【台湾】の項)
2、「日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年国民党政権がここに移った」(【台湾】の項)
3、「台湾省」(【中華人民共和国】の項)
4、「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」(【日中共同声明】の項)
そこでこれらの何が間違っているかを論じようと思うが、まず先に強調したいのは、広辞苑』が、こうした虚構宣伝に基づく誤りを訂正しようとしないばかりか、むしろ逆に重ねるごとに、虚偽の記述を広げていることだ。
その辺りの状況も、以下の旧版と比較しながら明らかにしたい。
第一版(第十九刷)一九六六年三月発行
第二版(補訂版第二刷)一九七七年十月発行
第三版(第一刷)一九八三年六月発行
第四版(第四刷)一九九四年九月発行
第五版(第一刷)一九九八年十一月発行
1、「明末・清初、鄭成功がオランダ植民者を追い出して中国領となった」

「台湾」の項で、その歴史をこのように書くわけだが、史実に反する。なぜならこの島が中国の政権の支配を受けるようになるのは一八八三年、清によってだからだ。
台湾を初めて領有した国は十七世紀のオランダだが、その史実を否定したいのが「台湾は古来中国の不可分の一部」との捏造歴史を強調してやまない中国である。中国外交部のHPに掲載の「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」との宣伝文書には「十七世紀中葉、オランダ殖民者は台湾を侵略、占領したが、民族英雄、鄭成功が一六六二年、オランダ殖民者を駆逐し、台湾を収復した」とあり、明の鄭成功が不法な「殖民者」たるオランダから台湾を中国に取り戻したなどとする作り話を強調している。
『広辞苑』のこの一文は、まさにその中国の捏造史観の定型表現の踏襲ではないか。
それでは、この部分に関する旧版の記述は如何。
「明末・清初の頃から漢人が移住して中国領に属した」(第一版)
「明末・清初の頃から漢人が多数移住して中国領に属した」(第二~四版)
これもまたおかしな記述だ。そもそも中国(清)の台湾領有と移民とは因果関係がない。清はそもそも台湾に倭寇、外国など敵勢力の基地化を防ぐべく、漢人移民を中国へ強制帰還させた。そして漢人が再度渡航、居住しないよう台湾の領有を決めたというのが史実である。したがってこの誤記は中国の宣伝に従ったと言うより、たんなる執筆者の知識不足によるものなのだろう。
ところが第五版以降、上でして来たように中国の政治宣伝の引用に切り替わるのである(鄭成功の台湾攻略の時期を「明末・清初」と記述するのもまた、あの国の定型表現の一つである)。
2、「日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年国民党政権がここに移った」

中国は台湾の領有権の国際法上の根拠を説明する際、しばしば次のような定型表現を用いている。
「一九四五年、日本は降伏し、無条件でポツダム宣言とカイロ宣言を受諾し、台湾を中国に返還した。ここに至り、台湾は再び中国の版図に入った」(「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」)
つまり日本は台湾の中国への台湾返還を謳ったカイロ宣言に基づき、台湾を中国(当時は中華民国)に返還し、そして中華民国の滅亡後は中華人民共和国がそれを継承したと宣伝するのであるが、これも事実の捏造だ。史実を言えば日本は、一九五二年に発効したサンフランシスコ講和条約に基づき台湾を放棄したのである。つまりどこの国にも台湾を割譲しなかったのである。もちろんすでに台湾は中華民国の支配下に置かれてはいたが、それは日本が返還(割譲)した結果としてではなく、中国内戦で敗れた中華民国政府が、連合国最高司令官総司令部の命令に基づき一九四五年以来を占領(領有ではない)していた台湾に亡命したからだ。
したがって「日本の敗戦によって中国に復帰し」との『広辞苑』の記述も明らかに、こうした中国の虚構宣伝の書き写しであることがわかる。
なお、かつてこの箇所は、次のように記されていた。
「昭和二十年八月我国のポツダム宣言受諾により我領土から離れ中国国民政府に接収され省制が布かれた」(第一版)
「一九四五年日本の敗戦によって中国に接収され、四九年蒋介石政権がここに移った」(第二・三版)
「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年蒋介石政権がここに移った」(第四・五版)
このように『広辞苑』は早くから誤記を重ねてきたのだ。
第一版の「ポツダム宣言受諾により我領土から離れ」との記述は間違い。台湾が「離れ」るのはサンフランシスコ講和条約の発効によってだ。第一版が編まれた当時、日本は中華民国政府を承認していたが、同政府も中華人民共和国政府と同様に、日本が一九四五年九月の降伏文書調印で、カイロ宣言の履行を義務付けるポツダム宣言の履行を誓約したことを以って、台湾返還が行われたと宣伝しており、そうした宣伝に執筆者が惑わされたが故の誤記ではないのか。
それに対し、第二、三版の「一九四五年日本の敗戦によって中国に接収され」との記述は、執筆者の認識はどうあれ、間違ってはいない。「接収」は必ずしも「領有」の意味ではないからだ。上述の通り、中国(中華民国)が台湾を占領、接収したのは事実である。
しかし第四版になると、「中国に接収され」が「中国に復帰し」との誤記に変わり、そのまま現在の第六版に至っているのである。
(なお「蒋介石政権がここに移った」は、第六版では「国民党政権がここに移った」に変わっているが、それは問題ではない)
3、「台湾省」

「中華人民共和国」の項で「中華人民共和国行政区分図」なる中国全図が載っている。それは省級行政区分を施した地図なのだが、それは間違いなく中国でよく見かける「行政区画(区分)図」の転載か何かだろう。あの国法定の行政区画によれば、省級行政区の一つとして「台湾省」が含まれており、この『広辞苑』が載せる地図にもしっかりと台湾の島が描かれており、「台湾省」と表示されているのである。
このような代物を掲載するのは第五版以降で、それ以前にはなかった。専門家ではなくてもすぐに間違いであるとわかる初歩的な誤記であることから、決して編集者の過失などではなく、中国迎合という故意によるものだと疑わざるを得ない。
誤記が許されない商品に、敢えて誤記を加えたと言うなら、これは購読者、利用者に対しる背信行為となる。『広辞苑』が長年蓄積して来た国民の信頼を今後も維持したいと思うなら、こうした地図は直ちに削除すべきである。
4、「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がそれに帰属することを実質的に認め」

「日中共同声明」の項で、日本政府の同声明での表明をこう表現する訳だが、台湾を中国に帰属すると「実質的に認め」たとするのは事実ではない。
共同声明の発表に先立ち、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを承認するよう中国から迫られるも、それが事実ではないために承諾しかねた日本は、「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると声明の中で表明した。それは、中国の主張がそのようなものであるとの事実を認識し、それに関して一々反論、批判は行わないと言った精一杯のリップサービスだったのだが、当初中国側はこの表現に激怒している。なぜならば、台湾を中国領土とする承認の拒絶を意味していたからに他ならない。しかし『広辞苑』はこれを曲解し、台湾は中国領土であると認めたと断じているのである。
中国は「世界には一つの中国しかなく、台湾は中国の不可分の一部だ。これは内外の中国人の共通認識であると共に、国連と世界の圧倒的多数の国が承認するものでもある」(「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」)などと強調し、世界各国が「台湾が中国の不可分の一部」と承認しているとの宣伝を展開するが、嘘である。実際に公式に「承認」を表明しているのは、中国の経済支援を受ける国を中心とした四十数カ国に止まると見られる。ところが『広辞苑』は、中国のそうした印象操作に歩調を合わせた格好である。
そして問題は、それが故意か過失かである。
「日中共同声明」の項は、実は一九七二年以前の第一版は素より、それ以後の第二、第三版にも設けられていなかった。「日中平和友好条約」の項目は、一九七八年の同条約調印後に出る第三版から設けられるのだが、同条約に比べて日中共同声明は、条約のような法的効力は伴わないものとの認識が日本ではあったためだろうか、『広辞苑』も同条約ほどは重要視していなかったようだ。
それでも第四版で初めてお目見えする。そこには以下のようにあった。
「日中の国交回復を表明した」(第四版)
ところがその後、その部分が一気に詳しさを増す。次のようにだ。
「戦争状態の終結と日中の国交締結を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを承認し」(第五版、第六版第一刷)
ここにある「台湾がこれに帰属することを承認し」というのは誤りだ。そこで我々は第六版第一刷の刊行直後、『広辞苑』編集部にそれの訂正を求めたところ、同編集部は誤記であることを認め、第二刷以降での訂正を約束した。そして実際に書き換えは行われ、現在の「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」となったわけだが、これは誤った改め方であり、断じて訂正したとは言えないのである。
書き換えを行った者はおそらく、日本はこの声明で「台湾は中国に帰属する」との明示的承認は行わなかったが、しかし黙示的には承認しているのだと。だが何度も言うが、日本はいかなる形の承認も行っていない。外務省にも電話で確認したが、『広辞苑』のこの表記は正しくないと言っている。
そこで先日、同編集部にこの一文の誤りを指摘したところ、「一度訂正を行う際、担当者は色々と考えながらこの表現を採った」と反論された。それでは何を「考え」ながらこのような表現を用いたのというのか。きっと「実質的」との曖昧な表現であれば、訂正を求めた人々を煙に巻けるし、中国から批判を受けることもないだろうと踏んだのに違いない。
中国側の宣伝に呼応するように、日中共同声明を歪曲した第五版の第一刷は一九九八年十一月の発行だが、ちょうどその月に日中共同宣言(平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言)が発せられ、そこには以下のように謳われていた。
「双方は、1972年9月29日に発表された日中共同声明及び1978年8月12日に署名された日中平和友好条約の諸原則を遵守することを改めて表明し、上記の文書は今後とも両国関係の最も重要な基礎であることを確認した」
こうした表明の背景には、一九九五、九六年での台湾海峡ミサイル危機で軍事的脅威を一気に拡大させていた当時の中国が、一九九七年に日米が防衛協力の指針(新ガイドライン)で「台湾有事」も含むと見られる「周辺事態」の考えを導入したことに危機感を抱いたことなどがある。その頃中国は日中共同声明や、同声明の意義を確認した日中平和友好条約を盾に、「台湾海峡問題は中国人同士の内政問題になった」などと強弁し、盛んに日本を牽制していたのである。
このように当時は、日中共同声明は日本牽制の具として、中国によって従来になく重要視され始めていた。そしてそうした状況下で『広辞苑』は「日中共同声明」の項で、まさに中国が喜ぶような歪曲解説を行ったのは、果たして偶然なのだろうか。
岩波書店はもともと反日米安保で親中国の姿勢際立つ左翼出版社だ。そのような行為に出ても決して不思議ではないと思うのだが、どうだろう。
そもそも、こうした誤記は中国問題を専門とする執筆者によるものだろう。だから決して素人の過失ではなく、中国専門家の故意によるものだと考えるのが妥当である。「承認した」との誤記が暴露されるや、巧妙にも「実質的に認めた」との書き換えで押し通そうとする恥じ知らずの姿勢も、多くの左翼的な中国専門家に見られる中国への忠誠心の如き歪み切った情念からのものではないのか。
それでは何を以って「歪んだ情念」と言うか。たとえば岩波書店は来年一月の『広辞苑』第七版の宣伝の中で、「『広辞苑』は長い年月を経て、読者の皆様に愛され、信頼を厚くし、いまや「国語+百科」辞典の最高峰、「国民的辞典」と言われるまでに成長しました」などと自画自賛する一方で、平然と外国の虚構宣伝を書き込んだ商品を平然と自国民に売り付け続けているのである。これを「歪んだ情念」と呼ばず何と呼ぶか。
そしてその外国とは、日本を含むアジア全体に軍事的脅威を及ぼし続ける中国だ。この中国の脅威が高まれば高まるほど、『広辞苑』はそれを正当化する宣伝を強化しているように見える。この辞書が立脚する所の「一つの中国」宣伝とは、まさに中国には台湾併合の権利があると主張するための宣伝に他ならない。
したがって中国の脅威が従来になく高まりつつある中、次なる第七版では更なる捏造宣伝が取り込まれるかも知れない。
そこで我々は第七版での、従来の誤記の訂正を求めているところだが、果たして岩波書店は、それに応じるだろうか。
実は気になるのは、中国教育省の管轄下にある上海外語教育出版社が『広辞苑』を再印刷して販売していることだ。二〇〇六年には第五版を、そして二〇一二年には第六版をそれぞれ中国国内で販売しているのである。つまり岩波書店はあの国の政府機関とは『広辞苑』に関する商取引関係にあるのだ。このような状況で、果たして岩波書店は「一つの中国」宣伝に基づく誤記を訂正するなどできるだろうか。

よく考えれば、『広辞苑』の中国の宣伝の導入が強化されたのは、中国でも販売されるようになるこの第五版からだ。すでに中国の影響下に組み入れられているのだとすれば、ますます岩波書店には、日本の社会の一員としての良識を取り戻すよう求めなければならない。
このような有害な辞書を全国の子供達が学校図書室で利用することを想像してみよう。
■『広辞苑』第6版の誤りを第7版(1月発行)で訂正するよう求めよう!

「台湾」の項目―「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰」は誤り!
「日中共同声明」の項目―「日本は台湾が台湾が中華人民共和国に帰属することを実質的に認めた」は誤り!
「中華人民共和国」の項目―「中華人民共和国行政区分」図に「台湾省」を含めるのは誤り!
・岩波書店『広辞苑』編集部
電話03-5210-4178
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・岩波書店問合せ
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協議会HP http://2020taiwan-seimei.tokyo/index.html
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たとえば最新の第六版(二〇〇八年一月第一刷発行)は、目下第八刷まで出ているが、それを開けば次の如き誤記があるのがわかる。
1、「明末清初、鄭成功がオランダ植民者を追い出して中国領となった」(【台湾】の項)
2、「日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年国民党政権がここに移った」(【台湾】の項)
3、「台湾省」(【中華人民共和国】の項)
4、「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」(【日中共同声明】の項)
そこでこれらの何が間違っているかを論じようと思うが、まず先に強調したいのは、広辞苑』が、こうした虚構宣伝に基づく誤りを訂正しようとしないばかりか、むしろ逆に重ねるごとに、虚偽の記述を広げていることだ。
その辺りの状況も、以下の旧版と比較しながら明らかにしたい。
第一版(第十九刷)一九六六年三月発行
第二版(補訂版第二刷)一九七七年十月発行
第三版(第一刷)一九八三年六月発行
第四版(第四刷)一九九四年九月発行
第五版(第一刷)一九九八年十一月発行
1、「明末・清初、鄭成功がオランダ植民者を追い出して中国領となった」

「台湾」の項で、その歴史をこのように書くわけだが、史実に反する。なぜならこの島が中国の政権の支配を受けるようになるのは一八八三年、清によってだからだ。
台湾を初めて領有した国は十七世紀のオランダだが、その史実を否定したいのが「台湾は古来中国の不可分の一部」との捏造歴史を強調してやまない中国である。中国外交部のHPに掲載の「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」との宣伝文書には「十七世紀中葉、オランダ殖民者は台湾を侵略、占領したが、民族英雄、鄭成功が一六六二年、オランダ殖民者を駆逐し、台湾を収復した」とあり、明の鄭成功が不法な「殖民者」たるオランダから台湾を中国に取り戻したなどとする作り話を強調している。
『広辞苑』のこの一文は、まさにその中国の捏造史観の定型表現の踏襲ではないか。
それでは、この部分に関する旧版の記述は如何。
「明末・清初の頃から漢人が移住して中国領に属した」(第一版)
「明末・清初の頃から漢人が多数移住して中国領に属した」(第二~四版)
これもまたおかしな記述だ。そもそも中国(清)の台湾領有と移民とは因果関係がない。清はそもそも台湾に倭寇、外国など敵勢力の基地化を防ぐべく、漢人移民を中国へ強制帰還させた。そして漢人が再度渡航、居住しないよう台湾の領有を決めたというのが史実である。したがってこの誤記は中国の宣伝に従ったと言うより、たんなる執筆者の知識不足によるものなのだろう。
ところが第五版以降、上でして来たように中国の政治宣伝の引用に切り替わるのである(鄭成功の台湾攻略の時期を「明末・清初」と記述するのもまた、あの国の定型表現の一つである)。
2、「日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年国民党政権がここに移った」

中国は台湾の領有権の国際法上の根拠を説明する際、しばしば次のような定型表現を用いている。
「一九四五年、日本は降伏し、無条件でポツダム宣言とカイロ宣言を受諾し、台湾を中国に返還した。ここに至り、台湾は再び中国の版図に入った」(「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」)
つまり日本は台湾の中国への台湾返還を謳ったカイロ宣言に基づき、台湾を中国(当時は中華民国)に返還し、そして中華民国の滅亡後は中華人民共和国がそれを継承したと宣伝するのであるが、これも事実の捏造だ。史実を言えば日本は、一九五二年に発効したサンフランシスコ講和条約に基づき台湾を放棄したのである。つまりどこの国にも台湾を割譲しなかったのである。もちろんすでに台湾は中華民国の支配下に置かれてはいたが、それは日本が返還(割譲)した結果としてではなく、中国内戦で敗れた中華民国政府が、連合国最高司令官総司令部の命令に基づき一九四五年以来を占領(領有ではない)していた台湾に亡命したからだ。
したがって「日本の敗戦によって中国に復帰し」との『広辞苑』の記述も明らかに、こうした中国の虚構宣伝の書き写しであることがわかる。
なお、かつてこの箇所は、次のように記されていた。
「昭和二十年八月我国のポツダム宣言受諾により我領土から離れ中国国民政府に接収され省制が布かれた」(第一版)
「一九四五年日本の敗戦によって中国に接収され、四九年蒋介石政権がここに移った」(第二・三版)
「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰し、四九年蒋介石政権がここに移った」(第四・五版)
このように『広辞苑』は早くから誤記を重ねてきたのだ。
第一版の「ポツダム宣言受諾により我領土から離れ」との記述は間違い。台湾が「離れ」るのはサンフランシスコ講和条約の発効によってだ。第一版が編まれた当時、日本は中華民国政府を承認していたが、同政府も中華人民共和国政府と同様に、日本が一九四五年九月の降伏文書調印で、カイロ宣言の履行を義務付けるポツダム宣言の履行を誓約したことを以って、台湾返還が行われたと宣伝しており、そうした宣伝に執筆者が惑わされたが故の誤記ではないのか。
それに対し、第二、三版の「一九四五年日本の敗戦によって中国に接収され」との記述は、執筆者の認識はどうあれ、間違ってはいない。「接収」は必ずしも「領有」の意味ではないからだ。上述の通り、中国(中華民国)が台湾を占領、接収したのは事実である。
しかし第四版になると、「中国に接収され」が「中国に復帰し」との誤記に変わり、そのまま現在の第六版に至っているのである。
(なお「蒋介石政権がここに移った」は、第六版では「国民党政権がここに移った」に変わっているが、それは問題ではない)
3、「台湾省」

「中華人民共和国」の項で「中華人民共和国行政区分図」なる中国全図が載っている。それは省級行政区分を施した地図なのだが、それは間違いなく中国でよく見かける「行政区画(区分)図」の転載か何かだろう。あの国法定の行政区画によれば、省級行政区の一つとして「台湾省」が含まれており、この『広辞苑』が載せる地図にもしっかりと台湾の島が描かれており、「台湾省」と表示されているのである。
このような代物を掲載するのは第五版以降で、それ以前にはなかった。専門家ではなくてもすぐに間違いであるとわかる初歩的な誤記であることから、決して編集者の過失などではなく、中国迎合という故意によるものだと疑わざるを得ない。
誤記が許されない商品に、敢えて誤記を加えたと言うなら、これは購読者、利用者に対しる背信行為となる。『広辞苑』が長年蓄積して来た国民の信頼を今後も維持したいと思うなら、こうした地図は直ちに削除すべきである。
4、「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がそれに帰属することを実質的に認め」

「日中共同声明」の項で、日本政府の同声明での表明をこう表現する訳だが、台湾を中国に帰属すると「実質的に認め」たとするのは事実ではない。
共同声明の発表に先立ち、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを承認するよう中国から迫られるも、それが事実ではないために承諾しかねた日本は、「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると声明の中で表明した。それは、中国の主張がそのようなものであるとの事実を認識し、それに関して一々反論、批判は行わないと言った精一杯のリップサービスだったのだが、当初中国側はこの表現に激怒している。なぜならば、台湾を中国領土とする承認の拒絶を意味していたからに他ならない。しかし『広辞苑』はこれを曲解し、台湾は中国領土であると認めたと断じているのである。
中国は「世界には一つの中国しかなく、台湾は中国の不可分の一部だ。これは内外の中国人の共通認識であると共に、国連と世界の圧倒的多数の国が承認するものでもある」(「なぜ“台湾は中国の不可分の一部”とするか」)などと強調し、世界各国が「台湾が中国の不可分の一部」と承認しているとの宣伝を展開するが、嘘である。実際に公式に「承認」を表明しているのは、中国の経済支援を受ける国を中心とした四十数カ国に止まると見られる。ところが『広辞苑』は、中国のそうした印象操作に歩調を合わせた格好である。
そして問題は、それが故意か過失かである。
「日中共同声明」の項は、実は一九七二年以前の第一版は素より、それ以後の第二、第三版にも設けられていなかった。「日中平和友好条約」の項目は、一九七八年の同条約調印後に出る第三版から設けられるのだが、同条約に比べて日中共同声明は、条約のような法的効力は伴わないものとの認識が日本ではあったためだろうか、『広辞苑』も同条約ほどは重要視していなかったようだ。
それでも第四版で初めてお目見えする。そこには以下のようにあった。
「日中の国交回復を表明した」(第四版)
ところがその後、その部分が一気に詳しさを増す。次のようにだ。
「戦争状態の終結と日中の国交締結を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを承認し」(第五版、第六版第一刷)
ここにある「台湾がこれに帰属することを承認し」というのは誤りだ。そこで我々は第六版第一刷の刊行直後、『広辞苑』編集部にそれの訂正を求めたところ、同編集部は誤記であることを認め、第二刷以降での訂正を約束した。そして実際に書き換えは行われ、現在の「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」となったわけだが、これは誤った改め方であり、断じて訂正したとは言えないのである。
書き換えを行った者はおそらく、日本はこの声明で「台湾は中国に帰属する」との明示的承認は行わなかったが、しかし黙示的には承認しているのだと。だが何度も言うが、日本はいかなる形の承認も行っていない。外務省にも電話で確認したが、『広辞苑』のこの表記は正しくないと言っている。
そこで先日、同編集部にこの一文の誤りを指摘したところ、「一度訂正を行う際、担当者は色々と考えながらこの表現を採った」と反論された。それでは何を「考え」ながらこのような表現を用いたのというのか。きっと「実質的」との曖昧な表現であれば、訂正を求めた人々を煙に巻けるし、中国から批判を受けることもないだろうと踏んだのに違いない。
中国側の宣伝に呼応するように、日中共同声明を歪曲した第五版の第一刷は一九九八年十一月の発行だが、ちょうどその月に日中共同宣言(平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言)が発せられ、そこには以下のように謳われていた。
「双方は、1972年9月29日に発表された日中共同声明及び1978年8月12日に署名された日中平和友好条約の諸原則を遵守することを改めて表明し、上記の文書は今後とも両国関係の最も重要な基礎であることを確認した」
こうした表明の背景には、一九九五、九六年での台湾海峡ミサイル危機で軍事的脅威を一気に拡大させていた当時の中国が、一九九七年に日米が防衛協力の指針(新ガイドライン)で「台湾有事」も含むと見られる「周辺事態」の考えを導入したことに危機感を抱いたことなどがある。その頃中国は日中共同声明や、同声明の意義を確認した日中平和友好条約を盾に、「台湾海峡問題は中国人同士の内政問題になった」などと強弁し、盛んに日本を牽制していたのである。
このように当時は、日中共同声明は日本牽制の具として、中国によって従来になく重要視され始めていた。そしてそうした状況下で『広辞苑』は「日中共同声明」の項で、まさに中国が喜ぶような歪曲解説を行ったのは、果たして偶然なのだろうか。
岩波書店はもともと反日米安保で親中国の姿勢際立つ左翼出版社だ。そのような行為に出ても決して不思議ではないと思うのだが、どうだろう。
そもそも、こうした誤記は中国問題を専門とする執筆者によるものだろう。だから決して素人の過失ではなく、中国専門家の故意によるものだと考えるのが妥当である。「承認した」との誤記が暴露されるや、巧妙にも「実質的に認めた」との書き換えで押し通そうとする恥じ知らずの姿勢も、多くの左翼的な中国専門家に見られる中国への忠誠心の如き歪み切った情念からのものではないのか。
それでは何を以って「歪んだ情念」と言うか。たとえば岩波書店は来年一月の『広辞苑』第七版の宣伝の中で、「『広辞苑』は長い年月を経て、読者の皆様に愛され、信頼を厚くし、いまや「国語+百科」辞典の最高峰、「国民的辞典」と言われるまでに成長しました」などと自画自賛する一方で、平然と外国の虚構宣伝を書き込んだ商品を平然と自国民に売り付け続けているのである。これを「歪んだ情念」と呼ばず何と呼ぶか。
そしてその外国とは、日本を含むアジア全体に軍事的脅威を及ぼし続ける中国だ。この中国の脅威が高まれば高まるほど、『広辞苑』はそれを正当化する宣伝を強化しているように見える。この辞書が立脚する所の「一つの中国」宣伝とは、まさに中国には台湾併合の権利があると主張するための宣伝に他ならない。
したがって中国の脅威が従来になく高まりつつある中、次なる第七版では更なる捏造宣伝が取り込まれるかも知れない。
そこで我々は第七版での、従来の誤記の訂正を求めているところだが、果たして岩波書店は、それに応じるだろうか。
実は気になるのは、中国教育省の管轄下にある上海外語教育出版社が『広辞苑』を再印刷して販売していることだ。二〇〇六年には第五版を、そして二〇一二年には第六版をそれぞれ中国国内で販売しているのである。つまり岩波書店はあの国の政府機関とは『広辞苑』に関する商取引関係にあるのだ。このような状況で、果たして岩波書店は「一つの中国」宣伝に基づく誤記を訂正するなどできるだろうか。

よく考えれば、『広辞苑』の中国の宣伝の導入が強化されたのは、中国でも販売されるようになるこの第五版からだ。すでに中国の影響下に組み入れられているのだとすれば、ますます岩波書店には、日本の社会の一員としての良識を取り戻すよう求めなければならない。
このような有害な辞書を全国の子供達が学校図書室で利用することを想像してみよう。
■『広辞苑』第6版の誤りを第7版(1月発行)で訂正するよう求めよう!

「台湾」の項目―「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰」は誤り!
「日中共同声明」の項目―「日本は台湾が台湾が中華人民共和国に帰属することを実質的に認めた」は誤り!
「中華人民共和国」の項目―「中華人民共和国行政区分」図に「台湾省」を含めるのは誤り!
・岩波書店『広辞苑』編集部
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