中国が内面指導か? 台湾「誤報」を繰り返す日本メディア
2016/10/26/Wed
■蔡英文総統の発言を「勇気ある」と伝えた毎日のコラム

蔡英文総統。これまで「中華人民共和国からの台湾独立」を求めたっことなど一度もないが、
しかし日本メディアの手にかかると…
サンデー毎日に連載され、毎日新聞のサイトにも転載されるコラム「世界透視術」(金子秀敏・毎日新聞客員編集委員)の十月二十三日のタイトルは「中国を『中国』と初めて表現した台湾・蔡総統の覚悟」。
それによれば、先日台湾でこんな出来事が。
―――9月28日は台湾の民進党創立30年記念日だった。党首をつとめる蔡英文総統が演説して「中国の圧力に『力抗』しよう」と呼びかけた。
―――「力抗」は力学の学術用語で抵抗を意味する。日本の新聞には出ていないが台湾で注目されたのは、蔡総統が初めて中国を「中国」と表現したからだ。
―――中国を中国と言ってなんの不思議もないようだが、台湾の蔡総統が言うと話がややこしくなる。中国を「中国」と言うのを裏返せば、自分は中国とは異なる国家「台湾」に属すると言ったことになるからだ。「そちらは中国、こちらは台湾」という政治的立場だ。
コラムはこのように書いた上で、「蔡総統が中国を中国と言ったのは、覚悟を決めた上での、勇気ある発言なのだ」と指摘する。
■なぜ中国は正しいか否かに触れないのか
なぜなら「そちらは中国、こちらは台湾」という考え方は、「中国からすると台湾独立論であり、絶対に認めることができないものだ。案の定、中国政府の台湾問題担当官が『いかなる台湾独立の分裂策動も成功しない』と批判のコメントを出した」という状況だからだ。
台湾紙によると、蔡氏はこれまで「中国を指す時には、政治的立場が出ないように『対岸(台湾海峡のあちら側)』とか「中国大陸」などと慎重に言葉を選んできた」そうだが、ここで注目したいのは、コラムが「そちらは中国、こちらは台湾」という蔡氏の「政治的立場」が「中国からすると台湾独立論」であると説明していることだ。
この中国の主張に関する説明は正しい。しかし残念なのは、その主張自体は正しいか否かという一番大事なことには触れていないことだ。
■「一つの中国」を批判しない日本メディアの掟
「そちらは中国、こちらは台湾」という蔡氏の考えは、「政治的立場」という以前に「事実の論述」である。台湾は最初から中華人民共和国に隷属していないのは全くの事実なのだ。
したがって、そうした考えを「台湾独立論」と見る中国は完全に誤っていることになるのだが、コラムはそのようには指摘しない。蔡氏と中国との「政治的立場」の違い、といった話で片付けようとしているのだろうか。
中国の「いかなる台湾独立の分裂策動も絶対に認めることができない」との一方的に緊張を高めるだけの横暴な言いがかりは問題視すべきだが、コラムにはそれがない。
実はそれはこのコラムに限った話ではない。「一つの中国」(台湾は中国の不可分の一部)という中国の宣伝に異を唱えないのは、すでに日本のマスメディアの長年間の(おそらく日中記者交換協定以降の)一種の慣習(掟と呼ぶべきか)になっているのだ。
コラムはその「掟」に従ったまでのことではないだろうか。
■不可解な日本メディアの一斉「誤報」行為
そしてそうした「掟」があるからこそ、毎日新聞を含むマスメディアは、「民進党」の名に言及のたび、「台湾独立志向」という言葉を枕詞のように付け加えるのだ。「台湾独立志向の民進党」とか「台湾独立志向が強い民進党」といった具合にだ。
もちろん「中国からの台湾独立志向」という意味でである(そのことは複数のマスメディアに直接確認済み)。そのようにして民進党が中国と対立していると強調したいのだろうが、言うまでもなくそれは事実に反した誤報だ。
台湾での一昨年の総統選挙の前哨戦だった統一地方選挙か、昨年に総統選挙活動が活発化したあたりから、各社が一斉にこの表現を持ち出し始めた気がするのだが、何しろ一斉に繰り返され続けるのだから、不可解だ。きっと中国側から内面指導を受けているのではないかと、私は真剣に疑っている。
疑って当然だろう。
ちなみにこの「世界透視術」コラムも十月九日には「中国は台湾独立派の蔡総統に対して・・・」などと書いていた(「蓮舫氏"釈明"に台湾騒然 背景に二つの"強制移送事件"」)。何だかんだ書いても、コラム自身は中国の「台湾独立論」に加担したいのだろうか。
■メディアは従来の誤りの糊塗で躍起か
そもそも「台湾独立」とは「中華人民共和国からの独立」ではなく「中華民国からの独立」を指すものだ。
民進党は一九九一年に採択の党綱領(所謂「台独党綱」)で、新憲法制定による中華民国憲法体制からの脱却と台湾共和国の建国という主張を打ち出している。だからそれを以って同党を「台湾独立志向」と呼ぶなら、それは決して間違いとは言えない。
そのことには毎日新聞もすでに気付いているようだ。五月の民進党政権の発足を伝えた記事では、「将来的な台湾統一を目指す中国は、党綱領に『台湾共和国』樹立を掲げるなど独立志向の民進党に強い警戒感を抱き・・・」などと書き、正確な意味での「独立志向」を説明していた。
それは従来の中国の宣伝に従った誤りを、我々がマスメディア各社に対して執拗に批判したためかも知れない(同時期から日本経済新聞も同様の説明に切り替え始めた)。
ただ毎日は誤りを糊塗することに躍起になりすぎた感もある。
たしかに中国が民進党の「台独党綱」を気にしているのは事実であるが、しかしそれがあるというだけで同党を「台湾独立志向」と繰り返し強調するのにはやや無理があるように思う。
なぜなら民進党はすでに一九九九年、中華民国を主権国家と認める立場に転じ、台独党綱を棚上げしているからである。
このような、取って付けたような説明をしてでも、これまでの誤りをうやむやにしたかったのか。
■マスメディアは中国を恐れぬ勇気ある報道を
蔡氏にしても、二〇一四年に台湾独立を謳った党綱領の凍結、廃止は不要とする考え示したことがあるが(若い世代に台湾と中国は別々とする考えが普遍的に持たれているとして)、しかし少なくとも公の場で中華民国体制の打倒を訴えたことはない。
今日の中国の民進党批判を見ればわかることだ。あの国が目下民進党の「台湾独立分裂の動き」として問題にしているのは、「一つの中国」原則を受け入れないことであり、台湾の新国家樹立ではないのである。
民進党を台湾独立分子とし、同党が中国からの独立を試み、一方的に緊張を高める世界のトラブルメーカーであるとの印象を広めたいのが中国だが、そうした宣伝工作に歩調を合わせているのが日本のマスメディアではないのか。
「一つの中国」原則を拒否できず、それにでき得る限り従おうとするため、「中華人民共和国からの独立志向」という誤報を行わざるを得なくなるのだろう。
民進党も蔡氏も、そのような「独立」など一度も訴えたことはないにもかかわらず。
今回ここで取り上げたコラムは、蔡氏が中国を中国と呼んだことを「覚悟を決めた上での、勇気ある発言」と讃えるが、実際にはどこまで蔡氏を擁護しているかはわからない。だがそれはともかく日本のマスメディアには中国の怒りを恐れることなく、「覚悟を決めた上での、勇気ある真実報道」を行って欲しいと思うのだ。
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蔡英文総統。これまで「中華人民共和国からの台湾独立」を求めたっことなど一度もないが、
しかし日本メディアの手にかかると…
サンデー毎日に連載され、毎日新聞のサイトにも転載されるコラム「世界透視術」(金子秀敏・毎日新聞客員編集委員)の十月二十三日のタイトルは「中国を『中国』と初めて表現した台湾・蔡総統の覚悟」。
それによれば、先日台湾でこんな出来事が。
―――9月28日は台湾の民進党創立30年記念日だった。党首をつとめる蔡英文総統が演説して「中国の圧力に『力抗』しよう」と呼びかけた。
―――「力抗」は力学の学術用語で抵抗を意味する。日本の新聞には出ていないが台湾で注目されたのは、蔡総統が初めて中国を「中国」と表現したからだ。
―――中国を中国と言ってなんの不思議もないようだが、台湾の蔡総統が言うと話がややこしくなる。中国を「中国」と言うのを裏返せば、自分は中国とは異なる国家「台湾」に属すると言ったことになるからだ。「そちらは中国、こちらは台湾」という政治的立場だ。
コラムはこのように書いた上で、「蔡総統が中国を中国と言ったのは、覚悟を決めた上での、勇気ある発言なのだ」と指摘する。
■なぜ中国は正しいか否かに触れないのか
なぜなら「そちらは中国、こちらは台湾」という考え方は、「中国からすると台湾独立論であり、絶対に認めることができないものだ。案の定、中国政府の台湾問題担当官が『いかなる台湾独立の分裂策動も成功しない』と批判のコメントを出した」という状況だからだ。
台湾紙によると、蔡氏はこれまで「中国を指す時には、政治的立場が出ないように『対岸(台湾海峡のあちら側)』とか「中国大陸」などと慎重に言葉を選んできた」そうだが、ここで注目したいのは、コラムが「そちらは中国、こちらは台湾」という蔡氏の「政治的立場」が「中国からすると台湾独立論」であると説明していることだ。
この中国の主張に関する説明は正しい。しかし残念なのは、その主張自体は正しいか否かという一番大事なことには触れていないことだ。
■「一つの中国」を批判しない日本メディアの掟
「そちらは中国、こちらは台湾」という蔡氏の考えは、「政治的立場」という以前に「事実の論述」である。台湾は最初から中華人民共和国に隷属していないのは全くの事実なのだ。
したがって、そうした考えを「台湾独立論」と見る中国は完全に誤っていることになるのだが、コラムはそのようには指摘しない。蔡氏と中国との「政治的立場」の違い、といった話で片付けようとしているのだろうか。
中国の「いかなる台湾独立の分裂策動も絶対に認めることができない」との一方的に緊張を高めるだけの横暴な言いがかりは問題視すべきだが、コラムにはそれがない。
実はそれはこのコラムに限った話ではない。「一つの中国」(台湾は中国の不可分の一部)という中国の宣伝に異を唱えないのは、すでに日本のマスメディアの長年間の(おそらく日中記者交換協定以降の)一種の慣習(掟と呼ぶべきか)になっているのだ。
コラムはその「掟」に従ったまでのことではないだろうか。
■不可解な日本メディアの一斉「誤報」行為
そしてそうした「掟」があるからこそ、毎日新聞を含むマスメディアは、「民進党」の名に言及のたび、「台湾独立志向」という言葉を枕詞のように付け加えるのだ。「台湾独立志向の民進党」とか「台湾独立志向が強い民進党」といった具合にだ。
もちろん「中国からの台湾独立志向」という意味でである(そのことは複数のマスメディアに直接確認済み)。そのようにして民進党が中国と対立していると強調したいのだろうが、言うまでもなくそれは事実に反した誤報だ。
台湾での一昨年の総統選挙の前哨戦だった統一地方選挙か、昨年に総統選挙活動が活発化したあたりから、各社が一斉にこの表現を持ち出し始めた気がするのだが、何しろ一斉に繰り返され続けるのだから、不可解だ。きっと中国側から内面指導を受けているのではないかと、私は真剣に疑っている。
疑って当然だろう。
ちなみにこの「世界透視術」コラムも十月九日には「中国は台湾独立派の蔡総統に対して・・・」などと書いていた(「蓮舫氏"釈明"に台湾騒然 背景に二つの"強制移送事件"」)。何だかんだ書いても、コラム自身は中国の「台湾独立論」に加担したいのだろうか。
■メディアは従来の誤りの糊塗で躍起か
そもそも「台湾独立」とは「中華人民共和国からの独立」ではなく「中華民国からの独立」を指すものだ。
民進党は一九九一年に採択の党綱領(所謂「台独党綱」)で、新憲法制定による中華民国憲法体制からの脱却と台湾共和国の建国という主張を打ち出している。だからそれを以って同党を「台湾独立志向」と呼ぶなら、それは決して間違いとは言えない。
そのことには毎日新聞もすでに気付いているようだ。五月の民進党政権の発足を伝えた記事では、「将来的な台湾統一を目指す中国は、党綱領に『台湾共和国』樹立を掲げるなど独立志向の民進党に強い警戒感を抱き・・・」などと書き、正確な意味での「独立志向」を説明していた。
それは従来の中国の宣伝に従った誤りを、我々がマスメディア各社に対して執拗に批判したためかも知れない(同時期から日本経済新聞も同様の説明に切り替え始めた)。
ただ毎日は誤りを糊塗することに躍起になりすぎた感もある。
たしかに中国が民進党の「台独党綱」を気にしているのは事実であるが、しかしそれがあるというだけで同党を「台湾独立志向」と繰り返し強調するのにはやや無理があるように思う。
なぜなら民進党はすでに一九九九年、中華民国を主権国家と認める立場に転じ、台独党綱を棚上げしているからである。
このような、取って付けたような説明をしてでも、これまでの誤りをうやむやにしたかったのか。
■マスメディアは中国を恐れぬ勇気ある報道を
蔡氏にしても、二〇一四年に台湾独立を謳った党綱領の凍結、廃止は不要とする考え示したことがあるが(若い世代に台湾と中国は別々とする考えが普遍的に持たれているとして)、しかし少なくとも公の場で中華民国体制の打倒を訴えたことはない。
今日の中国の民進党批判を見ればわかることだ。あの国が目下民進党の「台湾独立分裂の動き」として問題にしているのは、「一つの中国」原則を受け入れないことであり、台湾の新国家樹立ではないのである。
民進党を台湾独立分子とし、同党が中国からの独立を試み、一方的に緊張を高める世界のトラブルメーカーであるとの印象を広めたいのが中国だが、そうした宣伝工作に歩調を合わせているのが日本のマスメディアではないのか。
「一つの中国」原則を拒否できず、それにでき得る限り従おうとするため、「中華人民共和国からの独立志向」という誤報を行わざるを得なくなるのだろう。
民進党も蔡氏も、そのような「独立」など一度も訴えたことはないにもかかわらず。
今回ここで取り上げたコラムは、蔡氏が中国を中国と呼んだことを「覚悟を決めた上での、勇気ある発言」と讃えるが、実際にはどこまで蔡氏を擁護しているかはわからない。だがそれはともかく日本のマスメディアには中国の怒りを恐れることなく、「覚悟を決めた上での、勇気ある真実報道」を行って欲しいと思うのだ。
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