南支那海・仲裁判決で台湾は変わるかーどうなる中国式の領有の主張
2016/07/12/Tue
■南支那海領有権の主張は中華民国が生んだ
南支那海のほぼ全域を囲い込むU型の九段線を設定し、その内側の管轄権を主張する中国。そうした一方的な行為は認められないなどとするフィリピンの申し立てを受け、ハーグの常設仲裁裁判所が本七月十二日、判断を下す。
中国側に不利な裁定が出る可能性が高いため、中国は早くから「受け入れない」と宣言。同海域で大規模な軍事演習までやって見せたところだが、ところであの国はいかにして九段線なる大それた捏造の主張を案出したのだろうか。
実はそれは前朝である中華民国=国民党の十一段線の主張を継承し、それを微調整したものである。

中華帝国の広大な版図の復元を夢想した同党の中華民族主義者が、同海域は中国人が漢代以降に発見、命名、開発したとの歴史観を掲げ(日本の歴史学者の学説がヒントだとも)、考案したのがこうした「歴史性水域線」なのである。
■台湾が民主主義国家ではなくなる時
中華民国は終戦直後の一九四七年には十一段線を正式に定める「南海諸島位置図」を公告。軍艦を派遣してパラセル諸島(戦時中は日本の占領地)やスプラトリー諸島(当時はまだ日本領土)を接収した。
一九四九年、中華人民共和国が誕生。中華民国政府は台湾に亡命するも、なお十一段線の主張は維持し、現在も太平島(イツアバ島)や東沙諸島(プラタス諸島)を支配し続けている。
一九九三年には「南海政策綱領」を制定し、「南沙群島、西沙群島、中沙群島及び東沙群島は歴史、地理、国際法、事実に照らしても我が国固有の領土の一部であり、その主権は我が国に帰属する」と強調した。
そして今回下される仲裁裁判の判断に対しても、国民党の馬英九総統は在任中、「認めないし、受け入れもしない」と表明した。

「一つの中国」という虚構に立ち、南支那海の領有権を強調した馬英九前総統
中国と同じ姿勢を見せた訳だが、それは当然だろう。国共両党とも南支那海に関する主張は一致している。
このように妄想に立脚する中華民族主義を振りかざす時、台湾は民主主義国家とは見えなくなるのである。
■台湾には危険な「我が国固有の領土」
しかしそれは台湾自身にとって危険な話だ。
なぜなら「一つの中国」なる虚構宣伝の上に立っての主張だからだ。南支那海の領有を主張することは、自らを「中国の一部」と認めるに等しいのである。
だから中国は、比越などによる領有の主張は認めないが、台湾が領有を主張することには大喜びだ。逆に台湾が主張を止めるとなれば、台湾独立の動きなどとして激怒するだろう。
実際に台湾では、そうした主張を見直す動きが続いて来たのだ。たとえば民進党政権は二〇〇五年、南支那海の全「諸島」を「我が国(中国)固有の領土」と記載した前期の「南海政策綱領」を廃止。領有権の主張を太平島や東沙諸島に限定しようとするかに見えた。
ところがその後の国民党政権=馬英九総統は上述の通り、「我が国(中国)固有の領土」とする宣伝を盛んに行ったのである。
■蔡英文政権は米国の要請に応えるか
二〇一四年以降、領海や排他的経済水域(EEZ)などを定義する国連海洋法条約に符合しないとして、中国の九段線の主張を批判している米国は、中国と歩調を合わせるに等しい馬英九政権に対しても、U型線の主張を放棄するよう求めている。
しかし馬英九は二〇一六年一月、米国の反対を振り切るかたちで太平島に上陸。これには比越なども反撥したが、中国は「両岸は本来一つの中国に属す。中国は南海に対して疑うことのできない主権を擁しており、両岸同胞は共に国家主権と領土を守る責任がある」とする歓迎のコメントを見せた。
それでは五月に就任した民進党の蔡英文総統の姿勢はどうかといえば、こちらは米国の要請に応えようとしているのか、理知的だ。
たとえば蔡英文は一月の当選直後の記者会見でこう述べた。
「台湾は南海に関する主権を主張する。しかし主権の主張は国際法、特に国連海洋法条約に依拠するものとなる。航行・飛行の自由の確保に賛成し、緊張を高めることに反対し、南海問題が根本的に解決するのを希望する」

理智的な姿勢を見せる蔡英文総統
■報道されるU型線放棄の可能性
では今回の仲裁裁判に対してはどうか。台湾紙自由時報(七月十日)によれば、総統、台湾政府の姿勢はおよそ次のようなものだという。
「国連憲章と国連海洋法条約を重視し、航行・飛行の自由の確保を主張」
「全体的な裁判の過程を台湾に通知されないことは遺憾だと強調」
「各国に対し、それぞれが自制して交渉のテーブルに着き、争議を解決するなど、各国には共同で平和と安定を維持する責任があるとアピール」
果たして本日の判決をどう受け止めるのか。蔡英文政権はこれを機にU型線の主張を放棄する可能性があるとの報道も。
■中国への配慮で領有の主張は放棄できないか
しかし外交部(外務省)の李澄然常務次長は七月十一日、立法院(国会)答弁で、その報道を否定。「外交部の立場は馬英九政権当時と変わらない。政府の判決に対する立場は中国寄りにも米国寄りにもならないようにしなければならない」と説明した。
領有の主張の放棄は簡単ではないに違いない。政界、世論の反対の圧力を受けるなど、膨大なエネルギーを要することだろう。
そしてもう一つ、中国による反対の圧力もある。
中国外交部は七月五日、仲裁裁判に関連し、台湾に向けて次のようにコメントした。
「海峡両岸の中国人は共に中華民族共同の権益を守らなくてはならない」
そのような中国への配慮で、民進党内部でもU型線の放棄に消極的な意見があるそうだ。
【過去の関連記事】
「南沙」は台湾領土か(上)―中国が台湾とは争わない理由 15/11/3
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2701.html
「南沙」は台湾領土か(下)―南支那海問題で期待すべき台湾の政権交代 15/12/01
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2702.html
中国「南沙」の主張に根拠なし!戦後日本は「新南群島」を割譲していない 15/12/13
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2712.html
媚中報道問題―南支那海での振る舞いをなぜ「侵略」と呼ばない 15/12/22
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2718.html
頑張れ日本メディア! 「台湾は中国領ではない」と言おう 16/05/29
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2854.html
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中国側に不利な裁定が出る可能性が高いため、中国は早くから「受け入れない」と宣言。同海域で大規模な軍事演習までやって見せたところだが、ところであの国はいかにして九段線なる大それた捏造の主張を案出したのだろうか。
実はそれは前朝である中華民国=国民党の十一段線の主張を継承し、それを微調整したものである。

中華帝国の広大な版図の復元を夢想した同党の中華民族主義者が、同海域は中国人が漢代以降に発見、命名、開発したとの歴史観を掲げ(日本の歴史学者の学説がヒントだとも)、考案したのがこうした「歴史性水域線」なのである。
■台湾が民主主義国家ではなくなる時
中華民国は終戦直後の一九四七年には十一段線を正式に定める「南海諸島位置図」を公告。軍艦を派遣してパラセル諸島(戦時中は日本の占領地)やスプラトリー諸島(当時はまだ日本領土)を接収した。
一九四九年、中華人民共和国が誕生。中華民国政府は台湾に亡命するも、なお十一段線の主張は維持し、現在も太平島(イツアバ島)や東沙諸島(プラタス諸島)を支配し続けている。
一九九三年には「南海政策綱領」を制定し、「南沙群島、西沙群島、中沙群島及び東沙群島は歴史、地理、国際法、事実に照らしても我が国固有の領土の一部であり、その主権は我が国に帰属する」と強調した。
そして今回下される仲裁裁判の判断に対しても、国民党の馬英九総統は在任中、「認めないし、受け入れもしない」と表明した。

「一つの中国」という虚構に立ち、南支那海の領有権を強調した馬英九前総統
中国と同じ姿勢を見せた訳だが、それは当然だろう。国共両党とも南支那海に関する主張は一致している。
このように妄想に立脚する中華民族主義を振りかざす時、台湾は民主主義国家とは見えなくなるのである。
■台湾には危険な「我が国固有の領土」
しかしそれは台湾自身にとって危険な話だ。
なぜなら「一つの中国」なる虚構宣伝の上に立っての主張だからだ。南支那海の領有を主張することは、自らを「中国の一部」と認めるに等しいのである。
だから中国は、比越などによる領有の主張は認めないが、台湾が領有を主張することには大喜びだ。逆に台湾が主張を止めるとなれば、台湾独立の動きなどとして激怒するだろう。
実際に台湾では、そうした主張を見直す動きが続いて来たのだ。たとえば民進党政権は二〇〇五年、南支那海の全「諸島」を「我が国(中国)固有の領土」と記載した前期の「南海政策綱領」を廃止。領有権の主張を太平島や東沙諸島に限定しようとするかに見えた。
ところがその後の国民党政権=馬英九総統は上述の通り、「我が国(中国)固有の領土」とする宣伝を盛んに行ったのである。
■蔡英文政権は米国の要請に応えるか
二〇一四年以降、領海や排他的経済水域(EEZ)などを定義する国連海洋法条約に符合しないとして、中国の九段線の主張を批判している米国は、中国と歩調を合わせるに等しい馬英九政権に対しても、U型線の主張を放棄するよう求めている。
しかし馬英九は二〇一六年一月、米国の反対を振り切るかたちで太平島に上陸。これには比越なども反撥したが、中国は「両岸は本来一つの中国に属す。中国は南海に対して疑うことのできない主権を擁しており、両岸同胞は共に国家主権と領土を守る責任がある」とする歓迎のコメントを見せた。
それでは五月に就任した民進党の蔡英文総統の姿勢はどうかといえば、こちらは米国の要請に応えようとしているのか、理知的だ。
たとえば蔡英文は一月の当選直後の記者会見でこう述べた。
「台湾は南海に関する主権を主張する。しかし主権の主張は国際法、特に国連海洋法条約に依拠するものとなる。航行・飛行の自由の確保に賛成し、緊張を高めることに反対し、南海問題が根本的に解決するのを希望する」

理智的な姿勢を見せる蔡英文総統
■報道されるU型線放棄の可能性
では今回の仲裁裁判に対してはどうか。台湾紙自由時報(七月十日)によれば、総統、台湾政府の姿勢はおよそ次のようなものだという。
「国連憲章と国連海洋法条約を重視し、航行・飛行の自由の確保を主張」
「全体的な裁判の過程を台湾に通知されないことは遺憾だと強調」
「各国に対し、それぞれが自制して交渉のテーブルに着き、争議を解決するなど、各国には共同で平和と安定を維持する責任があるとアピール」
果たして本日の判決をどう受け止めるのか。蔡英文政権はこれを機にU型線の主張を放棄する可能性があるとの報道も。
■中国への配慮で領有の主張は放棄できないか
しかし外交部(外務省)の李澄然常務次長は七月十一日、立法院(国会)答弁で、その報道を否定。「外交部の立場は馬英九政権当時と変わらない。政府の判決に対する立場は中国寄りにも米国寄りにもならないようにしなければならない」と説明した。
領有の主張の放棄は簡単ではないに違いない。政界、世論の反対の圧力を受けるなど、膨大なエネルギーを要することだろう。
そしてもう一つ、中国による反対の圧力もある。
中国外交部は七月五日、仲裁裁判に関連し、台湾に向けて次のようにコメントした。
「海峡両岸の中国人は共に中華民族共同の権益を守らなくてはならない」
そのような中国への配慮で、民進党内部でもU型線の放棄に消極的な意見があるそうだ。
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