生命線防衛―もはや選択肢は台湾支持のみ
2008/01/29/Tue
※本稿は「明日への選択」(平成十九年十一月号、日本政策研究センター)からの転載です。
台湾の国連加盟問題
生命線防衛―もはや選択肢は台湾支持のみ
永山英樹 台湾研究フォーラム会長
■なぜ潘基文総長は「台湾代表」を許さぬ
今日、国連への加盟を果たせないでいる国は台湾(中華民国)だけだ。中華民国はもともと「中国代表」として加盟し、さらには安保理常任理事国ですらあったのだが、七一年、周恩来がアルバニアに提案させた第二七五八号決議で、中国代表の座を中華人民共和国に奪われ、国連から追放された。中華民国には当時、中国代表ではなく「台湾代表」の立場で議席を維持する道があり、日米もそれを選ぶよう説得したのだが、蒋介石は「漢賊並び立たず」(共産党の賊とは並立できない)を理由にそれを拒否した。「中国唯一の正統政権」の地位を自ら否定して、台湾で君臨する正当性が失われるのを恐れたわけだ。
かくして台湾人は、自分たちとは無関係の中国代表権の問題で国際社会で孤立したわけである。そこで台湾人の李登輝総統の就任後は、友好国を通じた「中華民国加盟」の申請提案を九三年以来行っているが、毎年却下されている。それは台湾が国家ではないからだとされているが、政府も領土も二千三百万人もの国民を擁する台湾がなぜ国家ではないなどと言えるのか。要するに問題は台湾ではなく中国にあるのだ。つまり加盟各国は中国の「台湾は中国領土」と言う主張に惑わされ、あるいはその圧力に屈しているからである。台湾を孤立させ、最後に併呑しようと言うのが中国最高の外交課題である。
こうした状況に危機感を高める陳水扁総統は今年七月、初めて「台湾」の名義で国連に加盟申請を行った。「中華民国」では自ら「台湾は中国の一部」と表明しているに等しい。そこで「台湾」の名で中国とは異なる存在を世界にアピールしようと言うわけだ。
ところが潘基文国連事務総長はその申請書を突き返した。理由は「国連事務局は第二七五八号決議以降、一つの中国政策をとっている」である。だがこれは明らかに同決議の曲解である。実際の決議内容は「中華人民共和国政府の代表を中国の国連での唯一の代表として承認する」「蒋介石の代表を不法占拠している議席から退去させる」と言うもので、台湾の帰属先に関するものではなかったからだ。
■ここまで大きい中国の国連への影響力
台湾の加盟申請を受けて中国の国連代表は、各国の代表に対して文書を配布し、「台湾はカイロ宣言に基づき、日本から返還されて中国領土となった」などと宣伝したが事実ではない。
日本は五一年のサンフランシスコ講和条約で台湾の主権は放棄した。ただその新たな帰属先は取り決められず、その地位は法的に未定とされた。実は第二七五八号決議も、まさにこの「法的未定論」に立ち、台湾を占拠している蒋介石政権の不法性を突いたものだった。これは何としてでも「蒋介石集団」を国連から追放したかった周恩来の苦肉の策である。もっともその後中国は「国連は台湾を中華人民共和国の一部と認め、台湾を追放した」と宣伝し、事務総長までがそれに従ったのだから、中国の影響力の大きさがわかろう。中国の影響下にあると言えば米国も同様で、台湾名義の加盟申請には反対を表明した。なぜなら中国がそれを「台湾独立の陰謀」とし、武力行使の口実としかねないからだ。
そしてその米国をさらに緊張させる事態が起こった。陳総統が来年の総統選挙と同時に、国連加盟の賛否を問う住民投票を実施する考えを表明したのだ。中国が何よりも恐れるのがそれである。もしそれを通じて加盟を熱望する台湾人の声が世界に届けられたなら、「台湾民衆が台湾は主権独立国家と考えていることが証明され、独立宣言と同じ効果を持つことになる。台湾は国家ではないなどと誰も主張できなくなる」(李鴻禧・台湾大学名誉教授)からだ。
事実中国側は「台湾が住民投票を強行すれば、空前の危機に陥る」(陳雲林・台湾工作弁公室主任)、「焦眉の急はいかに台湾の住民投票を阻止するか。それが行われれば、反国家分裂法のデットラインを超えることになる」(徐才厚・中央軍事委副主席)とまで警告を発している。
そこで米国は慌てて台湾への干渉を始めた。中米を訪問する陳総統の米本土へのトランジットを認めないとの「制裁」を行ったり、「台湾であれ中華民国であれ、国家とは言えない(加盟の資格はない)」と表明するなどで台湾に衝撃を与えている。
■台湾加盟支持で中国を抑止せよ
米国の言い分は「住民投票は台湾独立の第一歩。(台湾海峡の)現状を変更するもので誤りだ」(ネグロポンテ国務副長官)と言うものだ。日本も「いかなる一方的な現状変更の試みについても支持できない」(坂場外務報道官)として、台湾加盟に不支持を表明した。
この「一方的な現状変更」とは中国の台湾併呑、あるいは台湾の独立を指すのだが、今回は明らかに台湾の動きだけを問題にしている。そこで台湾紙「自由時報」は「台湾が現状を破壊しようとしているとの指摘は是非の転倒。台湾は国家正常化を進めているだけで、台湾が独立しているとの現状を破壊するものではない。それに対して中国はミサイルの照準を台湾に合わせ、武力侵略の可能性を示唆して台湾を恫喝しており、これこそ現状破壊行為だ。米国はそんな簡単なこともわからないのか」と批判しているが、正論である。
所詮米国にとって台湾問題は東アジアの問題なのだろう。台湾の主権よりも自分が戦争に巻き込まれない方が重要だとの判断が働いていないとは言えまい。だが日本にとってはどうか。地政学的に見て台湾併合は日本属国化に直結する。だから単独ででもその動きを牽制、抑止し、台中切り離しの「現状」を維持すべきはずだ。そしてそのために不可欠となるのが、台湾加盟への支持表明なのである。
簡単なことだ。陳総統は「国連は国際社会が戦争を防ぐために設立された国際機関だが、台湾だけは排除され、中国の軍事的脅威に直面している。もし大国の覇権に屈服して小国の権利を犠牲にしていいと言うなら、国連の主旨は根本的に否定される」と訴えているが、日本もそれと同じ訴えをすればいい。
もしそれを行えば、そしてそれに中国が猛反発すれば、ただそれだけで台湾加盟を巡る国連の不条理さに世界の注目が集まろう。もちろん日本は「我が国は台湾を中国に返還したことはない」と証言することとなる。そうなればただそれだけで、中国統一とは不法な領土拡張の動きであることが国際社会で明らかとなる。たとえ台湾加盟が果たせなくても構うまい。中国の台湾侵略の動きが世界各国の関心の下に置かれれば、従来にない中国への抑止力が生まれるのだ。
もはや理屈はいらない。数年後には台湾海峡の軍事バランスが中国優勢に転じると予測される中、日本に残された選択肢は「日中友好」ではなく「台湾支持」しかない。台湾加盟問題は日本の安保問題、生命線防衛の問題なのだ。
台湾の政府、国民は米国の反対圧力を撥ね退け、孤立無援の中で住民投票を断行する構えだ。まずはそれに声援を送れ。
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台湾の国連加盟問題
生命線防衛―もはや選択肢は台湾支持のみ
永山英樹 台湾研究フォーラム会長
■なぜ潘基文総長は「台湾代表」を許さぬ
今日、国連への加盟を果たせないでいる国は台湾(中華民国)だけだ。中華民国はもともと「中国代表」として加盟し、さらには安保理常任理事国ですらあったのだが、七一年、周恩来がアルバニアに提案させた第二七五八号決議で、中国代表の座を中華人民共和国に奪われ、国連から追放された。中華民国には当時、中国代表ではなく「台湾代表」の立場で議席を維持する道があり、日米もそれを選ぶよう説得したのだが、蒋介石は「漢賊並び立たず」(共産党の賊とは並立できない)を理由にそれを拒否した。「中国唯一の正統政権」の地位を自ら否定して、台湾で君臨する正当性が失われるのを恐れたわけだ。
かくして台湾人は、自分たちとは無関係の中国代表権の問題で国際社会で孤立したわけである。そこで台湾人の李登輝総統の就任後は、友好国を通じた「中華民国加盟」の申請提案を九三年以来行っているが、毎年却下されている。それは台湾が国家ではないからだとされているが、政府も領土も二千三百万人もの国民を擁する台湾がなぜ国家ではないなどと言えるのか。要するに問題は台湾ではなく中国にあるのだ。つまり加盟各国は中国の「台湾は中国領土」と言う主張に惑わされ、あるいはその圧力に屈しているからである。台湾を孤立させ、最後に併呑しようと言うのが中国最高の外交課題である。
こうした状況に危機感を高める陳水扁総統は今年七月、初めて「台湾」の名義で国連に加盟申請を行った。「中華民国」では自ら「台湾は中国の一部」と表明しているに等しい。そこで「台湾」の名で中国とは異なる存在を世界にアピールしようと言うわけだ。
ところが潘基文国連事務総長はその申請書を突き返した。理由は「国連事務局は第二七五八号決議以降、一つの中国政策をとっている」である。だがこれは明らかに同決議の曲解である。実際の決議内容は「中華人民共和国政府の代表を中国の国連での唯一の代表として承認する」「蒋介石の代表を不法占拠している議席から退去させる」と言うもので、台湾の帰属先に関するものではなかったからだ。
■ここまで大きい中国の国連への影響力
台湾の加盟申請を受けて中国の国連代表は、各国の代表に対して文書を配布し、「台湾はカイロ宣言に基づき、日本から返還されて中国領土となった」などと宣伝したが事実ではない。
日本は五一年のサンフランシスコ講和条約で台湾の主権は放棄した。ただその新たな帰属先は取り決められず、その地位は法的に未定とされた。実は第二七五八号決議も、まさにこの「法的未定論」に立ち、台湾を占拠している蒋介石政権の不法性を突いたものだった。これは何としてでも「蒋介石集団」を国連から追放したかった周恩来の苦肉の策である。もっともその後中国は「国連は台湾を中華人民共和国の一部と認め、台湾を追放した」と宣伝し、事務総長までがそれに従ったのだから、中国の影響力の大きさがわかろう。中国の影響下にあると言えば米国も同様で、台湾名義の加盟申請には反対を表明した。なぜなら中国がそれを「台湾独立の陰謀」とし、武力行使の口実としかねないからだ。
そしてその米国をさらに緊張させる事態が起こった。陳総統が来年の総統選挙と同時に、国連加盟の賛否を問う住民投票を実施する考えを表明したのだ。中国が何よりも恐れるのがそれである。もしそれを通じて加盟を熱望する台湾人の声が世界に届けられたなら、「台湾民衆が台湾は主権独立国家と考えていることが証明され、独立宣言と同じ効果を持つことになる。台湾は国家ではないなどと誰も主張できなくなる」(李鴻禧・台湾大学名誉教授)からだ。
事実中国側は「台湾が住民投票を強行すれば、空前の危機に陥る」(陳雲林・台湾工作弁公室主任)、「焦眉の急はいかに台湾の住民投票を阻止するか。それが行われれば、反国家分裂法のデットラインを超えることになる」(徐才厚・中央軍事委副主席)とまで警告を発している。
そこで米国は慌てて台湾への干渉を始めた。中米を訪問する陳総統の米本土へのトランジットを認めないとの「制裁」を行ったり、「台湾であれ中華民国であれ、国家とは言えない(加盟の資格はない)」と表明するなどで台湾に衝撃を与えている。
■台湾加盟支持で中国を抑止せよ
米国の言い分は「住民投票は台湾独立の第一歩。(台湾海峡の)現状を変更するもので誤りだ」(ネグロポンテ国務副長官)と言うものだ。日本も「いかなる一方的な現状変更の試みについても支持できない」(坂場外務報道官)として、台湾加盟に不支持を表明した。
この「一方的な現状変更」とは中国の台湾併呑、あるいは台湾の独立を指すのだが、今回は明らかに台湾の動きだけを問題にしている。そこで台湾紙「自由時報」は「台湾が現状を破壊しようとしているとの指摘は是非の転倒。台湾は国家正常化を進めているだけで、台湾が独立しているとの現状を破壊するものではない。それに対して中国はミサイルの照準を台湾に合わせ、武力侵略の可能性を示唆して台湾を恫喝しており、これこそ現状破壊行為だ。米国はそんな簡単なこともわからないのか」と批判しているが、正論である。
所詮米国にとって台湾問題は東アジアの問題なのだろう。台湾の主権よりも自分が戦争に巻き込まれない方が重要だとの判断が働いていないとは言えまい。だが日本にとってはどうか。地政学的に見て台湾併合は日本属国化に直結する。だから単独ででもその動きを牽制、抑止し、台中切り離しの「現状」を維持すべきはずだ。そしてそのために不可欠となるのが、台湾加盟への支持表明なのである。
簡単なことだ。陳総統は「国連は国際社会が戦争を防ぐために設立された国際機関だが、台湾だけは排除され、中国の軍事的脅威に直面している。もし大国の覇権に屈服して小国の権利を犠牲にしていいと言うなら、国連の主旨は根本的に否定される」と訴えているが、日本もそれと同じ訴えをすればいい。
もしそれを行えば、そしてそれに中国が猛反発すれば、ただそれだけで台湾加盟を巡る国連の不条理さに世界の注目が集まろう。もちろん日本は「我が国は台湾を中国に返還したことはない」と証言することとなる。そうなればただそれだけで、中国統一とは不法な領土拡張の動きであることが国際社会で明らかとなる。たとえ台湾加盟が果たせなくても構うまい。中国の台湾侵略の動きが世界各国の関心の下に置かれれば、従来にない中国への抑止力が生まれるのだ。
もはや理屈はいらない。数年後には台湾海峡の軍事バランスが中国優勢に転じると予測される中、日本に残された選択肢は「日中友好」ではなく「台湾支持」しかない。台湾加盟問題は日本の安保問題、生命線防衛の問題なのだ。
台湾の政府、国民は米国の反対圧力を撥ね退け、孤立無援の中で住民投票を断行する構えだ。まずはそれに声援を送れ。
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