台湾は「南沙」領有の主張を変えるかー五月の政権交代後に期待される日米との共同歩調
2016/01/28/Thu
■馬英九の南支那海視察に米国が怒り
台湾(中華民国)の馬英九総統は一月二十八日、南支那海のスプラトリー(南沙)諸島の最大の島で(中国の人口島を除く)、同国が支配する太平島を視察した。

これ受け、直ちに不快感を表明したのが米国だ。トナー国務院副報道官は「失望した。こうした行動は無益。南支那海の争いの平和的解決に何の助けにもならない」とした上で。「台湾及びすべての当事国は緊張を高めるのではなく、緩和させるべきだ」と訴えている。
実は馬英九は昨年十二月にも視察を計画したが、米国の反対で取り止めている。それではなぜ今回は強行したのか。
「駐在する軍人、警官などへの春節(旧正月)前の慰問」が視察目的とされているが、実はフィリピンに対抗するためだとの見方もある。
「ハーグの仲裁裁判所に提訴しているフィリピンが、太平島は島ではなく岩礁だと主張したため、馬英九は島を訪れて主権をアピールする必要があった」との学者の指摘が報じられている。
また「馬氏の残り任期は約4カ月で、太平島訪問を自らの実績の一つとしたい思いもあるようだ」(日本経済新聞)との見方も一般的だ。
それではこれがいったいいかなる「実績」になるというのか。それについては後で考えてみたい。
■台湾と共に南支那海を守りたい中国
今回、緊張の高まりを警戒した米国だが、実際に懸念するのは中国を刺激することではなく、それ以外の比、越などを怒らせることだったようだ。
そもそも中国は、この南支那海問題で台湾とだけは争おうとしないでいる。今回の馬英九の視察に対しても中国は、米国とは逆に歓迎の談話を発表しているのだ。国務院台湾事務弁公室の馬曉光報道官はこう述べた。
「中国は南海諸島(スプラトリー諸島など)に対して争うべからざる主権を擁しており、国家の主権と領土の完全性を守り、中華民族の全体的な利益を守るのは、両岸(中国と台湾)同胞共同の責任と義務だ」と。
中国は南支那海全域にU字の境界線(九段線)を引き、その内側の領有を主張する一方で、台湾もほぼ同様のU字線(十一段線)を以って全海域の領有を主張しているわけだが、実は双方ともに、そこは「中国の海だ」と言っているのだ。
■台湾との共闘求める狙いは台湾統一
だから馬英九も今回の視察中、次のようにスピーチしている。
「南海の島の主権問題で数十年来争いが続くが、我々もここではっきりさせたい。南海諸島は我が国の先人が西漢時代に発見し、命名、使用して来た。そして遅くとも清の康熙年間には正式に海防システムに組み入れ、巡視と管理を行ってきた。我が政府も一九三五年と四七年に南海諸島地図を出版し、国際社会に対して南海諸島とその周辺海域の主権を主張して来た」
これを見てもわかるだろう。台湾の中華民国は、南支那海を台湾ではなく「中国」の領海と看做し、その領有を主張しているのである。
馬英九の歴史経緯説明はどうあれ、少なくともはっきりしいるのは、スプラトリー諸島に関しては、そこを領有していた日本の敗戦に乗じ、中華民国が一方的に占領して領有を宣言し、そしてその後成立した中華人民共和国が、その領有権を継承し、次々と岩礁を占拠して、そこに人口島を造成しているということ。
中国が狙うのは、台湾側と共に南支那海の領有権を主張し、双方がともに「一つの中国」に帰属するということを確認しながら、「中国統一」を促進することだ。これらの島々を守るのは「両岸同胞共同の責任と義務だ」と主張するのも、そういう意味なのである。
■馬英九の太平島視察は中国のため?
そしてそうした中国の戦略に、馬英九は歩調を合わせたいように見える。
「残り任期は約4カ月で、太平島訪問を自らの実績の一つとしたい」と願っているとされる馬英九だが、その「実績」は誰に見せるためかを考えるに、おそらく台湾国民よりも中国の政府、国民に見せたがっているのではないか。少なくとも南支那海問題への台湾の関与は、台湾国民以上に中共が望んでいることではある。
昨年十一月、馬英九が習近平主席との台中首脳会談を実現した動機も「退任前の実績作り」とされていたが、要するに台湾の歴史というより中華民族の歴史に「実績」を刻みたかったのだ。
自国民の対しては、反対されるのを恐れ、直前にメディアにすっぱ抜かれるまで会談の計画を隠し続けていたのだから。
今回の視察もそれと同様ではないかと見えるのである。
なお馬英九は、五月に総統に就任する民進党の蔡英文主席にも同行を求めたが、拒絶されている。
■南支那海政策の転換が期待される蔡英文政権
国民党と異なり民進党は「一つの中国」を受け入れておらず、南支那海全体を中国古来の海域とする虚構にも付き合う気はないはずだ。
昨年蔡英文は「民進党は太平島の主権を放棄することはない」と表明したが、それは台湾政府が、U字線内部の全体ではなく、実際に支配する島嶼の領有権だけを主張するとの姿勢の表れではないか。
また、「民進党は国際法、特に国連海洋法条約を基づき、島や海域の争いの平和的解決すること、公海上の自由航行権を堅持することを主張する」とも語り、日米などと歩調を合わせる構えも見せている。
米国の台中問題専門家であるジョン・タシクは二〇一四年に開かれたシンポジウムで、「米国のアジア回帰政策が成功するか否かは、米国とその同盟国、パートナー国が朝治太平洋地域で一致した戦略を採用し、共同で戦う能力を発揮できるか否かに掛っている。そしてその中で台湾の役割は極めて大きい」と指摘した。
こうした米国の戦略に照らせば、馬英九政権の中国に歩調を合わせるかのような南支那海政策は受け入れ難いものなのだろう。
会場には蔡英文のブレーンたちも出席しており、「民進党は台湾当局の主張する南海の境界線を放棄すべきかどうかを検討している」と発言している。
もちろんこうした姿勢を中国が許容できるはずがない。
中国国防大学の史暁東副教授は「蔡英文は米国、日本の支持を取り付けるため、まさに中国大陸(中国)が南海周辺国及び米日など域外大国との争いを利用し、国民党当局とは異なる主張を行い、南海情勢や両岸関係に重大な禍を増え付けようとしている」と警鐘を鳴らした。
蔡英文政権発足後の台湾の南支那海政策には、果たして好ましい転換が見られるだろうか。
【過去の関連記事】
「南沙」は台湾領土か(上)―中国が台湾とは争わない理由 15/11/3
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2701.html
「南沙」は台湾領土か(下)―南支那海問題で期待すべき台湾の政権交代 15/12/01
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2702.html
中国「南沙」の主張に根拠なし!戦後日本は「新南群島」を割譲していない 15/12/1
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2712.html
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台湾(中華民国)の馬英九総統は一月二十八日、南支那海のスプラトリー(南沙)諸島の最大の島で(中国の人口島を除く)、同国が支配する太平島を視察した。

これ受け、直ちに不快感を表明したのが米国だ。トナー国務院副報道官は「失望した。こうした行動は無益。南支那海の争いの平和的解決に何の助けにもならない」とした上で。「台湾及びすべての当事国は緊張を高めるのではなく、緩和させるべきだ」と訴えている。
実は馬英九は昨年十二月にも視察を計画したが、米国の反対で取り止めている。それではなぜ今回は強行したのか。
「駐在する軍人、警官などへの春節(旧正月)前の慰問」が視察目的とされているが、実はフィリピンに対抗するためだとの見方もある。
「ハーグの仲裁裁判所に提訴しているフィリピンが、太平島は島ではなく岩礁だと主張したため、馬英九は島を訪れて主権をアピールする必要があった」との学者の指摘が報じられている。
また「馬氏の残り任期は約4カ月で、太平島訪問を自らの実績の一つとしたい思いもあるようだ」(日本経済新聞)との見方も一般的だ。
それではこれがいったいいかなる「実績」になるというのか。それについては後で考えてみたい。
■台湾と共に南支那海を守りたい中国
今回、緊張の高まりを警戒した米国だが、実際に懸念するのは中国を刺激することではなく、それ以外の比、越などを怒らせることだったようだ。
そもそも中国は、この南支那海問題で台湾とだけは争おうとしないでいる。今回の馬英九の視察に対しても中国は、米国とは逆に歓迎の談話を発表しているのだ。国務院台湾事務弁公室の馬曉光報道官はこう述べた。
「中国は南海諸島(スプラトリー諸島など)に対して争うべからざる主権を擁しており、国家の主権と領土の完全性を守り、中華民族の全体的な利益を守るのは、両岸(中国と台湾)同胞共同の責任と義務だ」と。
中国は南支那海全域にU字の境界線(九段線)を引き、その内側の領有を主張する一方で、台湾もほぼ同様のU字線(十一段線)を以って全海域の領有を主張しているわけだが、実は双方ともに、そこは「中国の海だ」と言っているのだ。
■台湾との共闘求める狙いは台湾統一
だから馬英九も今回の視察中、次のようにスピーチしている。
「南海の島の主権問題で数十年来争いが続くが、我々もここではっきりさせたい。南海諸島は我が国の先人が西漢時代に発見し、命名、使用して来た。そして遅くとも清の康熙年間には正式に海防システムに組み入れ、巡視と管理を行ってきた。我が政府も一九三五年と四七年に南海諸島地図を出版し、国際社会に対して南海諸島とその周辺海域の主権を主張して来た」
これを見てもわかるだろう。台湾の中華民国は、南支那海を台湾ではなく「中国」の領海と看做し、その領有を主張しているのである。
馬英九の歴史経緯説明はどうあれ、少なくともはっきりしいるのは、スプラトリー諸島に関しては、そこを領有していた日本の敗戦に乗じ、中華民国が一方的に占領して領有を宣言し、そしてその後成立した中華人民共和国が、その領有権を継承し、次々と岩礁を占拠して、そこに人口島を造成しているということ。
中国が狙うのは、台湾側と共に南支那海の領有権を主張し、双方がともに「一つの中国」に帰属するということを確認しながら、「中国統一」を促進することだ。これらの島々を守るのは「両岸同胞共同の責任と義務だ」と主張するのも、そういう意味なのである。
■馬英九の太平島視察は中国のため?
そしてそうした中国の戦略に、馬英九は歩調を合わせたいように見える。
「残り任期は約4カ月で、太平島訪問を自らの実績の一つとしたい」と願っているとされる馬英九だが、その「実績」は誰に見せるためかを考えるに、おそらく台湾国民よりも中国の政府、国民に見せたがっているのではないか。少なくとも南支那海問題への台湾の関与は、台湾国民以上に中共が望んでいることではある。
昨年十一月、馬英九が習近平主席との台中首脳会談を実現した動機も「退任前の実績作り」とされていたが、要するに台湾の歴史というより中華民族の歴史に「実績」を刻みたかったのだ。
自国民の対しては、反対されるのを恐れ、直前にメディアにすっぱ抜かれるまで会談の計画を隠し続けていたのだから。
今回の視察もそれと同様ではないかと見えるのである。
なお馬英九は、五月に総統に就任する民進党の蔡英文主席にも同行を求めたが、拒絶されている。
■南支那海政策の転換が期待される蔡英文政権
国民党と異なり民進党は「一つの中国」を受け入れておらず、南支那海全体を中国古来の海域とする虚構にも付き合う気はないはずだ。
昨年蔡英文は「民進党は太平島の主権を放棄することはない」と表明したが、それは台湾政府が、U字線内部の全体ではなく、実際に支配する島嶼の領有権だけを主張するとの姿勢の表れではないか。
また、「民進党は国際法、特に国連海洋法条約を基づき、島や海域の争いの平和的解決すること、公海上の自由航行権を堅持することを主張する」とも語り、日米などと歩調を合わせる構えも見せている。
米国の台中問題専門家であるジョン・タシクは二〇一四年に開かれたシンポジウムで、「米国のアジア回帰政策が成功するか否かは、米国とその同盟国、パートナー国が朝治太平洋地域で一致した戦略を採用し、共同で戦う能力を発揮できるか否かに掛っている。そしてその中で台湾の役割は極めて大きい」と指摘した。
こうした米国の戦略に照らせば、馬英九政権の中国に歩調を合わせるかのような南支那海政策は受け入れ難いものなのだろう。
会場には蔡英文のブレーンたちも出席しており、「民進党は台湾当局の主張する南海の境界線を放棄すべきかどうかを検討している」と発言している。
もちろんこうした姿勢を中国が許容できるはずがない。
中国国防大学の史暁東副教授は「蔡英文は米国、日本の支持を取り付けるため、まさに中国大陸(中国)が南海周辺国及び米日など域外大国との争いを利用し、国民党当局とは異なる主張を行い、南海情勢や両岸関係に重大な禍を増え付けようとしている」と警鐘を鳴らした。
蔡英文政権発足後の台湾の南支那海政策には、果たして好ましい転換が見られるだろうか。
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