同胞を中国に告発できるタイプ―台湾人元歌手の事例
2015/12/02/Wed
■ひまわり学生運動―中国が許さない台湾人歌手の「過去」
中国でも人気がある台湾の若手歌手、盧広仲は、十一月末に予定されていた広東での音楽祭への出演が取り消され、さらに十二月の北京、西安でのコンサートも延期させられた。いずれも直前になっての決定である。

台湾の人気歌手、盧広仲。中国でのコンサートが延期された理由は彼の「過去」にある
なぜこうなったかと言うと、中国にとっては好ましからざる、彼のある「過去」が明らかになったからだ。
それは、昨年台湾で発生した太陽花(ひまわり)学生運動に参加していたことだ。
■デモ参加の写真をネットで暴露した中国の男
言うまでもなく太陽花運動は、中国とのサービス貿易協定に反対する学生達の立法院(国会)占拠を契機に広がったものだ。中国には中国統一(台湾併呑)を拒む不倶戴天の台湾独立運動に映る(そうした見方は正しいのだが)。
ではなぜ今になり、この「過去」が問題にされたかと言えば、それを「暴露」した者がいたからだ。黄安という五十歳代の男である。
彼は十一月下旬から、微博(中国版ツイッター)を利用し、立法院周辺のデモの写真を載せて「台湾がんばれ」とコメントした盧広仲のフェイスブックの写真、そしてマスクで顔を隠してデモに参加する盧広仲自身の写真などを公開している。

盧広仲がFBに載せた太陽花学生運動の写真と「台湾加油」(台湾がんばれ)との
コメント。これが中国で問題視された

テレビニュースの画面の写真。運動に参加する盧広仲が映る。これも中国で散布され、ネットユーザー
の怒りを買った
■人気歌手に貼られた「台独分子」のレッテル
そして彼に「サービス貿易協定に反対する台独分子」とのレッテルを張ったのだ。
黄安はこのようにして中国のネットユーザーたちの怒りを煽った。かくしてコンサートボイコットの声も広がった。
「残念だ。私が反対したのは協定自体ではなく、協定調印の不透明さなのに」と悔しがる盧広仲。
「これ以上誤解して、対立を煽らないで」と訴えるが、今後は中国市場への配慮で「台湾がんばれ」と書けなくなるのだろうか。
これまでもこのように、台湾を愛するが故に、中国(ネットユーザー)からの不当な「言論弾圧」に苛まれた台湾の芸能人は大勢いる。
■中国に魂を売り渡した台湾人の元歌手
ところでこの黄安なる人物だが、実は彼は台湾人で、以前は歌手だった。もともと他人を批判するのが好きらしく、十数年前に複数の芸能人に対して攻撃を繰り返してメディアから干され、その後家族を連れて中国へ移り住んだという経緯がある。

かつて台湾で歌手だった黄安。その後中国へ
中国に帰化したと見られるが、すでに魂をあの国に売り渡したのだろうか。「台独バスター」を自称しながら、先日も次のような騒ぎを起こしている。
九月末のことだ。やはり微博を使って「台独を支持する女」が「アモイの国営企業と合作し、それで稼いだ支那のカネを台独運動の支援に充てると言っている」と暴露。
この「台独女」の言論は、中国では閲覧が規制されるフェイスブックでのものにつき、黄安はアモイ市の「打黒」(犯罪撲滅)部門に徹底調査を要請した。
■ネット上の反中言論を中国当局に通報
これを受け同部門は直ちに、「もしネットを利用して台独理念を宣揚して中国の民衆、祖国を攻撃する者があれば、決してろくな目に遭わない」との警告を発している。
ちなみにこの「ろくな目に遭わない」(没有好下場)は、中国統一に反対する台湾人に向けて、中国が常用する脅し文句である。「武力行使も辞さないぞ」という。
そして黄安は十月に入ると、今度は国務院台湾事務弁公室(国台弁)へ赴き、「台湾地区人民の×××及びその家族は中国大陸に設置の投資事業体を利用して台独活動に資金援助を行っている件に関し調査と処分をお願いしたい」と訴えた。
■中国の「威」を借りてかつての同胞を脅す
この時彼はその国台弁の入口の前で、「私は反台独だが反台湾ではない」と書かれたプラカードを掲げた。そしてメディアには次のようにコメントしている。

台湾人の告発のため国台弁を訪れた黄安。入り口で「台独に反対だが台湾に反対し
ない」と書いたプラカードを広げた
「この件が起こってから、台湾では私を台奸(台湾を裏切る台湾人)と罵るが、私は台湾同胞に言いたい。“両親は台湾人で、私は台湾を愛している”と」
「台独勢力に打撃を加えるのは祖国の一貫した方針。人民を敵にしても、ろくな目には遭わない」
またしても「ろくな目に遭わない」だ。
黄安は中国の「威」を借り、かつての同胞を脅したいようである。
■最初から「話」の真偽は重要ではない
こうした黄安の「大活躍」には中国メディアも注目したのだが、その一方で「黄安は本当に低能だ。ネットでの雑談を信用するなんて」と台湾メディアの前で笑い飛ばすのが黄安に矛先を向けられた「台独女」。
その名は鍾承芳さん。台湾メディアの報道によれば「二十四歳で正義感が強く、太陽花学生運動で女戦神との異名を持つ」という。

黄安に中国当局へ通報された鍾承芳さん。黄が引き起こした騒動を笑い飛ばした
しかしその女性の話の真偽など、黄安にとっても国台弁にとっても、最初からどうでもいいことなのだろう。
国台弁など中国当局にとり最も重要なのは、反中国の言動を見せる台湾人勢力に対し、機会あるごとに恫喝を加え、牽制することなのだから。
■国代弁報道官が台湾に向けた脅し文句
十一月下旬、国台弁の報道官の定例記者会見で、台湾メディアが次のように質問した。どうも黄安の問題についてらしい。
「最近、盧広仲はコンサートを取り消されたが、それは事実か。サービス貿易協定に反対する者は台独分子と看做されるのか。最近、有名人がよく『台独』のレッテルを張って他人を攻撃し、両岸人民の対立感情を煽っているが、こうした状況をどう見るのか」
これに対して報道官は、「それらについて具体的には知らない」と前置きしながら、「私が強調したいのは、台独活動による分裂に対して断固反対するとの私達の立場は決して揺るがないということだ」と答えている。
完全な恫喝である。
■こうして日本人も中国に取込まれるのか
こうした中国当局のため、黄安はその走狗を嬉々として演じ続けているのだろう。
そうすることで、持ち前の他人批判の欲求が満たされるばかりか、中国の当局、人民からは讃えられ、これまで自分を不遇な目にあわせて来た台湾人たちには見返しにもなれば報復にもなるということだろうか。
心の歪みと言うべきか。そうした人間の弱点は、簡単に中国の取込み工作のターゲットになりそうだ。
日本でも政界から市井に至るまで、簡単に同胞を裏切れるような中国の走狗の如き人間は普遍的に見られるわけだが、そこには黄安のようなタイプは少なくないはずである。
また台湾の芸能人たちのように、中国の恫喝圧力を恐れ、台湾に関する言論を自己規制する日本人も多いことだろう。政府やマスメディアを見ていて、常々そう思うのだ。
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中国でも人気がある台湾の若手歌手、盧広仲は、十一月末に予定されていた広東での音楽祭への出演が取り消され、さらに十二月の北京、西安でのコンサートも延期させられた。いずれも直前になっての決定である。

台湾の人気歌手、盧広仲。中国でのコンサートが延期された理由は彼の「過去」にある
なぜこうなったかと言うと、中国にとっては好ましからざる、彼のある「過去」が明らかになったからだ。
それは、昨年台湾で発生した太陽花(ひまわり)学生運動に参加していたことだ。
■デモ参加の写真をネットで暴露した中国の男
言うまでもなく太陽花運動は、中国とのサービス貿易協定に反対する学生達の立法院(国会)占拠を契機に広がったものだ。中国には中国統一(台湾併呑)を拒む不倶戴天の台湾独立運動に映る(そうした見方は正しいのだが)。
ではなぜ今になり、この「過去」が問題にされたかと言えば、それを「暴露」した者がいたからだ。黄安という五十歳代の男である。
彼は十一月下旬から、微博(中国版ツイッター)を利用し、立法院周辺のデモの写真を載せて「台湾がんばれ」とコメントした盧広仲のフェイスブックの写真、そしてマスクで顔を隠してデモに参加する盧広仲自身の写真などを公開している。

盧広仲がFBに載せた太陽花学生運動の写真と「台湾加油」(台湾がんばれ)との
コメント。これが中国で問題視された

テレビニュースの画面の写真。運動に参加する盧広仲が映る。これも中国で散布され、ネットユーザー
の怒りを買った
■人気歌手に貼られた「台独分子」のレッテル
そして彼に「サービス貿易協定に反対する台独分子」とのレッテルを張ったのだ。
黄安はこのようにして中国のネットユーザーたちの怒りを煽った。かくしてコンサートボイコットの声も広がった。
「残念だ。私が反対したのは協定自体ではなく、協定調印の不透明さなのに」と悔しがる盧広仲。
「これ以上誤解して、対立を煽らないで」と訴えるが、今後は中国市場への配慮で「台湾がんばれ」と書けなくなるのだろうか。
これまでもこのように、台湾を愛するが故に、中国(ネットユーザー)からの不当な「言論弾圧」に苛まれた台湾の芸能人は大勢いる。
■中国に魂を売り渡した台湾人の元歌手
ところでこの黄安なる人物だが、実は彼は台湾人で、以前は歌手だった。もともと他人を批判するのが好きらしく、十数年前に複数の芸能人に対して攻撃を繰り返してメディアから干され、その後家族を連れて中国へ移り住んだという経緯がある。

かつて台湾で歌手だった黄安。その後中国へ
中国に帰化したと見られるが、すでに魂をあの国に売り渡したのだろうか。「台独バスター」を自称しながら、先日も次のような騒ぎを起こしている。
九月末のことだ。やはり微博を使って「台独を支持する女」が「アモイの国営企業と合作し、それで稼いだ支那のカネを台独運動の支援に充てると言っている」と暴露。
この「台独女」の言論は、中国では閲覧が規制されるフェイスブックでのものにつき、黄安はアモイ市の「打黒」(犯罪撲滅)部門に徹底調査を要請した。
■ネット上の反中言論を中国当局に通報
これを受け同部門は直ちに、「もしネットを利用して台独理念を宣揚して中国の民衆、祖国を攻撃する者があれば、決してろくな目に遭わない」との警告を発している。
ちなみにこの「ろくな目に遭わない」(没有好下場)は、中国統一に反対する台湾人に向けて、中国が常用する脅し文句である。「武力行使も辞さないぞ」という。
そして黄安は十月に入ると、今度は国務院台湾事務弁公室(国台弁)へ赴き、「台湾地区人民の×××及びその家族は中国大陸に設置の投資事業体を利用して台独活動に資金援助を行っている件に関し調査と処分をお願いしたい」と訴えた。
■中国の「威」を借りてかつての同胞を脅す
この時彼はその国台弁の入口の前で、「私は反台独だが反台湾ではない」と書かれたプラカードを掲げた。そしてメディアには次のようにコメントしている。

台湾人の告発のため国台弁を訪れた黄安。入り口で「台独に反対だが台湾に反対し
ない」と書いたプラカードを広げた
「この件が起こってから、台湾では私を台奸(台湾を裏切る台湾人)と罵るが、私は台湾同胞に言いたい。“両親は台湾人で、私は台湾を愛している”と」
「台独勢力に打撃を加えるのは祖国の一貫した方針。人民を敵にしても、ろくな目には遭わない」
またしても「ろくな目に遭わない」だ。
黄安は中国の「威」を借り、かつての同胞を脅したいようである。
■最初から「話」の真偽は重要ではない
こうした黄安の「大活躍」には中国メディアも注目したのだが、その一方で「黄安は本当に低能だ。ネットでの雑談を信用するなんて」と台湾メディアの前で笑い飛ばすのが黄安に矛先を向けられた「台独女」。
その名は鍾承芳さん。台湾メディアの報道によれば「二十四歳で正義感が強く、太陽花学生運動で女戦神との異名を持つ」という。

黄安に中国当局へ通報された鍾承芳さん。黄が引き起こした騒動を笑い飛ばした
しかしその女性の話の真偽など、黄安にとっても国台弁にとっても、最初からどうでもいいことなのだろう。
国台弁など中国当局にとり最も重要なのは、反中国の言動を見せる台湾人勢力に対し、機会あるごとに恫喝を加え、牽制することなのだから。
■国代弁報道官が台湾に向けた脅し文句
十一月下旬、国台弁の報道官の定例記者会見で、台湾メディアが次のように質問した。どうも黄安の問題についてらしい。
「最近、盧広仲はコンサートを取り消されたが、それは事実か。サービス貿易協定に反対する者は台独分子と看做されるのか。最近、有名人がよく『台独』のレッテルを張って他人を攻撃し、両岸人民の対立感情を煽っているが、こうした状況をどう見るのか」
これに対して報道官は、「それらについて具体的には知らない」と前置きしながら、「私が強調したいのは、台独活動による分裂に対して断固反対するとの私達の立場は決して揺るがないということだ」と答えている。
完全な恫喝である。
■こうして日本人も中国に取込まれるのか
こうした中国当局のため、黄安はその走狗を嬉々として演じ続けているのだろう。
そうすることで、持ち前の他人批判の欲求が満たされるばかりか、中国の当局、人民からは讃えられ、これまで自分を不遇な目にあわせて来た台湾人たちには見返しにもなれば報復にもなるということだろうか。
心の歪みと言うべきか。そうした人間の弱点は、簡単に中国の取込み工作のターゲットになりそうだ。
日本でも政界から市井に至るまで、簡単に同胞を裏切れるような中国の走狗の如き人間は普遍的に見られるわけだが、そこには黄安のようなタイプは少なくないはずである。
また台湾の芸能人たちのように、中国の恫喝圧力を恐れ、台湾に関する言論を自己規制する日本人も多いことだろう。政府やマスメディアを見ていて、常々そう思うのだ。
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