なぜ台湾総統はアイリス・チャン『レイプ・オブ・南京』を讃えたか
2015/08/28/Fri
■「台湾は反日に転じた」との誤解は生まれていないか
“台湾・馬総統、アイリス・チャン氏を称賛/『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者”との記事が八月二十六日、産経新聞に載った。
言うまでもなくこの書は「南京攻略時の旧日本軍の残虐性を過度に強調しており、日本の研究者により証拠資料の誤りが多数指摘」(産経記事)されてきたもので、これを書いたチャン氏(張純如。二〇〇四年に死去)の背後に中共の反日宣伝工作が働いたとの指摘もある。
しかし馬英九氏総統は八月二十五日、同氏の両親を総統府へ招き、チャン氏に褒章を授与したのだ。

アイリス・チャン氏の両親に褒章を手渡した馬英九総統
馬英九氏と言えば最近、「台湾人慰安婦の強制連行」は事実だったとし、教科書への記載、記念館の設置準備、または日本側への謝罪要求などの動きを見せている。
そのため「慰安婦の次は南京だとは」「台湾も反日に転じたか」との懸念や、「台湾人もしょせんは中国人と同じか」との不信感が広く抱かれたのではないか。
台湾が親日であるが故、「可愛い奴だ」と台湾を見下したがる歪んだ心の日本人も実に多いが、この手の人間は、「台湾は生意気にも日本を裏切った」などと怒り心頭に発しているのではないか。
しかしそうした不信感の高まりは、戦略的に日台離間を求める中共を喜ばすだけだ。馬英九氏は台湾の総統ではあるが、しかし中国出身の中華民族主義者。台湾人ではなく中国人につき、その歴史の見方も最初から反日、仇日、侮日なのである。
■抗日勝利キャンペーンの一環としての「南京」宣伝
馬英九氏の国民党政権はこのところ、抗日戦争勝利七十周年の記念行事に忙しい。
中共側の七十年の記念行事に対抗し、抗戦を主導したのは中共ではなく国民党だと宣伝するのが目的だとも強調するが、その一方で、中華民族主義を台湾人に押しつけたがっているようでもあり、そしてそうすることで同じ中華民族主義の中共の歓心を買おうとしているかにも見える。
今回の褒章も、抗日記念キャンペーンの一環なのだ。
「これは中華民国政府及び人民による、十一年遅れの感謝、尊敬、懐かしみの表しだ」
馬英九氏はこう語り、チャン氏の両親に褒章を手渡している。
そして「国際社会で無視されて来た中華民国の対日抗戦の血涙と第二次大戦への貢献だが、張純如氏は史料を発掘し、南京での惨状を描写してくれた」と、授与の理由を説明した。

アイリス・チャン氏を讃える馬英九氏。両親とは反日本、反台湾の話題に花を咲かせた
■中華民族主義で結ばれる国民党と中共
チャン氏の両親は中国生まれで、幼いころに国共内戦で敗れた蒋介石とともに台湾へ亡命。その後渡米してチャン氏を生んだ。
二人は台湾で優遇され、数々の抗日記念行事に顔を出している。
二十七日には外交部主催の記者会見に出た。そこで母親は「私の父は国民党員。蒋介石委員長が抗戦を主導した歴史をよく知っている」と述べた。
ところがその一方で、九月に行われる中共の七十周年記念行事に出席の意向も明らかにした。「誰が中心に戦ったかは問題ではない。一致協力して日本人と戦ったのだ。これが重要だ」と。
もちろん今の国民党はそれを咎めない。かつて互いを不倶戴天の敵として対立した国共両党だが、いまやすっかり反日=中華民族主義で結ばれているのである。
■台湾人の民族性は馬英九の「抗日」宣伝に冷ややか
ことさら「抗日」を強調する馬英九氏の反日史観に、台湾人一般は冷ややかだ。
そもそも台湾人は、台湾人には中国人とは異なる独自の歴史の歩みもある。李登輝元総統が最近、日本の「Voice」誌で「七十年前まで日本と台湾は『同じ国』だったのである。『同じ国』だったのだから、台湾が日本と戦った(抗日)という事実もない」と書いたとおりだ。
李登輝氏のこの一文には、馬英九氏をはじめ国民党がヒステリックに反応し、李登輝氏への誹謗中傷キャンペーンを貼ったが、このように日本や日本批判に応じない自国民を憎悪し、民族主義を滾らすような中国人的なやり方、台湾人の性格にはとても馴染まない。
そのため「抗日」記念ではしゃぐ馬英九政権に対し、対日関係に不利だとの批判も出ているが、馬英九氏はチャン氏の両親との対談で、次のように反論した。
「日本と調印した五十八項目の協定の内、二十五項目は自分の任期内のもの。台湾は東日本大震災での義捐金も国別で最多。自分もテレビで募金した。今の台日関係は断交以降最良だ」と。
もともと日本国民は馬英九政権の尖閣問題などでの反日姿勢を警戒していたが、東日本大震災の被災地への台湾国民の巨額の義捐金に象徴される親日感情が、日本国民を感動させ、親台感情も従来にないほど高まり、馬政権への不信感もすっかり忘れられた格好となったわけだが、こうした自国民の親日感情をも自分の政策の成果だと強調する胡散臭さが、馬英九氏にはかねてからある。
■反日に走らない台湾人に対する中華民族主義者の怒り
しかし同氏の日本への友情が台湾人一般のそれと異なるのは、この日の次の発言からも明らかだ。
「(対日関係の良好さは)抗日戦争勝利の記念行事の拡大に影響を及ぼさない」
こうした割切り方は、台湾人には真似できまい。
チャン氏の母親は「日本の首相は戦後七十周年談話で明確に謝罪していない。海外華僑は今、個人的な謝罪ではなく国会を通じた正式な謝罪を求めようと動いている」などとして、馬英九氏と反日話に花を咲かせた。
馬英九氏は対談で、日本の「侵略」「殖民地支配」の歴史を批判しようとしない台湾国民への不満も漏らしている。「戦争の被害を受けた海峡両岸(台湾と中国)の人民は共に過去と向き合い未来へ向かうべきなのだ」と。
一方、チャン氏の母親も二十七日、メディアに対し、李登輝氏が「台湾に抗日はなかった」と書いたことについて、「元総統がそのように言うなど信じられないことだ」と批判し、史実を論じた台湾人への怒りを滲ませている。
■「抗日記念」の矛先は向くのは日本よりも台湾
国共両党、そしてチャン氏の両親のような海外華僑を結ぶのが中華民族主義である。そしてそれはしばしば今回の抗日記念の如く、日本批判をバネに発揚されるものだが、しかし両党の抗日記念の提携は、日本牽制というよりも台湾人への牽制という側面が遥かに大きい。
中華民族主義者にとって親日的な台湾人は中国人意識の欠如と映る。台湾支配を維持したい国民党にとっても、台湾併呑を目指す中共にとっても、そうした台湾人の意識は何としても改造しなければならない対象なのだ。
台湾では来年の総統選挙で台湾人主導の民進党が政権を奪還する可能氏が高まっているが、馬英九氏はそれまでの間、「反日」をキーワードに、無我夢中になって台湾の「中国化」に狂奔しようとしているかに見える。
親台感情が高まる日本。あの国への関心がとても高まっているというのに、こうした状況がなかなか伝わって来ないのが残念だ。
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“台湾・馬総統、アイリス・チャン氏を称賛/『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者”との記事が八月二十六日、産経新聞に載った。
言うまでもなくこの書は「南京攻略時の旧日本軍の残虐性を過度に強調しており、日本の研究者により証拠資料の誤りが多数指摘」(産経記事)されてきたもので、これを書いたチャン氏(張純如。二〇〇四年に死去)の背後に中共の反日宣伝工作が働いたとの指摘もある。
しかし馬英九氏総統は八月二十五日、同氏の両親を総統府へ招き、チャン氏に褒章を授与したのだ。

アイリス・チャン氏の両親に褒章を手渡した馬英九総統
馬英九氏と言えば最近、「台湾人慰安婦の強制連行」は事実だったとし、教科書への記載、記念館の設置準備、または日本側への謝罪要求などの動きを見せている。
そのため「慰安婦の次は南京だとは」「台湾も反日に転じたか」との懸念や、「台湾人もしょせんは中国人と同じか」との不信感が広く抱かれたのではないか。
台湾が親日であるが故、「可愛い奴だ」と台湾を見下したがる歪んだ心の日本人も実に多いが、この手の人間は、「台湾は生意気にも日本を裏切った」などと怒り心頭に発しているのではないか。
しかしそうした不信感の高まりは、戦略的に日台離間を求める中共を喜ばすだけだ。馬英九氏は台湾の総統ではあるが、しかし中国出身の中華民族主義者。台湾人ではなく中国人につき、その歴史の見方も最初から反日、仇日、侮日なのである。
■抗日勝利キャンペーンの一環としての「南京」宣伝
馬英九氏の国民党政権はこのところ、抗日戦争勝利七十周年の記念行事に忙しい。
中共側の七十年の記念行事に対抗し、抗戦を主導したのは中共ではなく国民党だと宣伝するのが目的だとも強調するが、その一方で、中華民族主義を台湾人に押しつけたがっているようでもあり、そしてそうすることで同じ中華民族主義の中共の歓心を買おうとしているかにも見える。
今回の褒章も、抗日記念キャンペーンの一環なのだ。
「これは中華民国政府及び人民による、十一年遅れの感謝、尊敬、懐かしみの表しだ」
馬英九氏はこう語り、チャン氏の両親に褒章を手渡している。
そして「国際社会で無視されて来た中華民国の対日抗戦の血涙と第二次大戦への貢献だが、張純如氏は史料を発掘し、南京での惨状を描写してくれた」と、授与の理由を説明した。

アイリス・チャン氏を讃える馬英九氏。両親とは反日本、反台湾の話題に花を咲かせた
■中華民族主義で結ばれる国民党と中共
チャン氏の両親は中国生まれで、幼いころに国共内戦で敗れた蒋介石とともに台湾へ亡命。その後渡米してチャン氏を生んだ。
二人は台湾で優遇され、数々の抗日記念行事に顔を出している。
二十七日には外交部主催の記者会見に出た。そこで母親は「私の父は国民党員。蒋介石委員長が抗戦を主導した歴史をよく知っている」と述べた。
ところがその一方で、九月に行われる中共の七十周年記念行事に出席の意向も明らかにした。「誰が中心に戦ったかは問題ではない。一致協力して日本人と戦ったのだ。これが重要だ」と。
もちろん今の国民党はそれを咎めない。かつて互いを不倶戴天の敵として対立した国共両党だが、いまやすっかり反日=中華民族主義で結ばれているのである。
■台湾人の民族性は馬英九の「抗日」宣伝に冷ややか
ことさら「抗日」を強調する馬英九氏の反日史観に、台湾人一般は冷ややかだ。
そもそも台湾人は、台湾人には中国人とは異なる独自の歴史の歩みもある。李登輝元総統が最近、日本の「Voice」誌で「七十年前まで日本と台湾は『同じ国』だったのである。『同じ国』だったのだから、台湾が日本と戦った(抗日)という事実もない」と書いたとおりだ。
李登輝氏のこの一文には、馬英九氏をはじめ国民党がヒステリックに反応し、李登輝氏への誹謗中傷キャンペーンを貼ったが、このように日本や日本批判に応じない自国民を憎悪し、民族主義を滾らすような中国人的なやり方、台湾人の性格にはとても馴染まない。
そのため「抗日」記念ではしゃぐ馬英九政権に対し、対日関係に不利だとの批判も出ているが、馬英九氏はチャン氏の両親との対談で、次のように反論した。
「日本と調印した五十八項目の協定の内、二十五項目は自分の任期内のもの。台湾は東日本大震災での義捐金も国別で最多。自分もテレビで募金した。今の台日関係は断交以降最良だ」と。
もともと日本国民は馬英九政権の尖閣問題などでの反日姿勢を警戒していたが、東日本大震災の被災地への台湾国民の巨額の義捐金に象徴される親日感情が、日本国民を感動させ、親台感情も従来にないほど高まり、馬政権への不信感もすっかり忘れられた格好となったわけだが、こうした自国民の親日感情をも自分の政策の成果だと強調する胡散臭さが、馬英九氏にはかねてからある。
■反日に走らない台湾人に対する中華民族主義者の怒り
しかし同氏の日本への友情が台湾人一般のそれと異なるのは、この日の次の発言からも明らかだ。
「(対日関係の良好さは)抗日戦争勝利の記念行事の拡大に影響を及ぼさない」
こうした割切り方は、台湾人には真似できまい。
チャン氏の母親は「日本の首相は戦後七十周年談話で明確に謝罪していない。海外華僑は今、個人的な謝罪ではなく国会を通じた正式な謝罪を求めようと動いている」などとして、馬英九氏と反日話に花を咲かせた。
馬英九氏は対談で、日本の「侵略」「殖民地支配」の歴史を批判しようとしない台湾国民への不満も漏らしている。「戦争の被害を受けた海峡両岸(台湾と中国)の人民は共に過去と向き合い未来へ向かうべきなのだ」と。
一方、チャン氏の母親も二十七日、メディアに対し、李登輝氏が「台湾に抗日はなかった」と書いたことについて、「元総統がそのように言うなど信じられないことだ」と批判し、史実を論じた台湾人への怒りを滲ませている。
■「抗日記念」の矛先は向くのは日本よりも台湾
国共両党、そしてチャン氏の両親のような海外華僑を結ぶのが中華民族主義である。そしてそれはしばしば今回の抗日記念の如く、日本批判をバネに発揚されるものだが、しかし両党の抗日記念の提携は、日本牽制というよりも台湾人への牽制という側面が遥かに大きい。
中華民族主義者にとって親日的な台湾人は中国人意識の欠如と映る。台湾支配を維持したい国民党にとっても、台湾併呑を目指す中共にとっても、そうした台湾人の意識は何としても改造しなければならない対象なのだ。
台湾では来年の総統選挙で台湾人主導の民進党が政権を奪還する可能氏が高まっているが、馬英九氏はそれまでの間、「反日」をキーワードに、無我夢中になって台湾の「中国化」に狂奔しようとしているかに見える。
親台感情が高まる日本。あの国への関心がとても高まっているというのに、こうした状況がなかなか伝わって来ないのが残念だ。
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