中国が喜ぶ日本メディア「台湾総統選」関連の悪質偏向報道
2015/06/22/Mon
■恫喝の被害者を悪者にしたがる日本の台湾報道
台湾で来年一月に行われる総統選挙は、中共が期待する国民党候補と、警戒する民進党候補との一騎打ちになる見通し。
前者には洪秀柱立法院副院長が内定し、後者は蔡英文・党主席に正式決定しているが、すでに日本の一部メディアからも、もし蔡英文が当選すれば、中共は台湾海峡の緊張を高めるのではないかとの懸念が示されている。

5月末から6月上旬にかけて訪米した民進党の総統候補、蔡英文。
これに関する中共の反応、日本のメディアの反応とは
台湾の統一(併呑)を目論む中共の文攻武嚇(宣伝攻撃、武力恫喝)に抵抗を諦めつつあるのが国民党で、諦めないのが民進党。だから民進党政権が発足すれば、当然のことながら中共は緊張を高めるわけであるが、それについて日本のメディアには、その民進党を平和と安定を破壊しかねないトラブルメーカー視する傾向がある。
たとえば昨年十二月三日の産経新聞社説を見よう。
台湾統一地方選挙で「台湾独立色の強い民進党」が躍進して次期総統選挙をにらんでいるのを受け、次の如く同党に対し懸命に自重を求めていたのが印象に残る。
「台湾の『安定と繁栄』を担保しつつ、台湾海峡を挟む両岸関係を安定させる現実に即した対中政策を打ち出すことが求められよう」
「両岸関係の安定は、微妙なバランスの上に成り立つ。(中略)独立に傾けば緊張が高まることにつながる」
「台湾住民のほぼ8割は、台湾の『現状維持』を望んでいる」
「台湾の繁栄と地域の安定には経済、安全保障の両面で均衡が不可欠だ。日米を含む国際社会の現実的な利益もまさにそこにある」
ちなみにこの社説は、実際には「緊張」を一方的に高める中共については何も触れていない。だからこれを読む限り、台湾だけが隠忍自重することが、「日米を含む国際社会の現実的な利益」に繋がると受け取れる。
「両岸関係を安定させる現実に即した対中政策」を打ち出せなどと注文するが、その「現実」というものを知っているのだろうか。後でも書くように「両岸関係を安定させる」には台湾が国家主権を自己否定する以外にないのだが、それでいいのか。
もともと同党をトラブルメーカーだと強調するのは中共及び国民党だが(両者は反民進党で連携している)、日本のメディアまでもが、恐喝の加害者ではなく被害者を悪者扱いにする宣伝に与したいようだ。
国民党と同様、中共に屈服して善悪の判断が付かなくなっているのだろうか。
■民進党は「平和に背く危険な台湾独立勢力」との印象

蔡英文訪米の牽制発言を繰り返した中国国台弁の馬暁光報道官
さてその民進党だが、産経は同党が早くも中共を刺激している様子を伝えている。六月十日の配信記事“中国、台湾野党主席と会談した米を批判 「平和的発展に背く」”を見てみよう。
―――中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は10日の記者会見で、米高官が訪米した台湾野党、民主進歩党(民進党)の蔡英文主席と会談したことを、「台湾海峡の平和と安定、両岸(中国と台湾)関係の平和的発展に背くものだ」と強く批判した。
―――中国側は、ブリンケン国務副長官らが、レストランなどではなく、米国務省で会談に応じたことに強く反発。馬報道官は「米側は適切に、1つの中国政策と中米間の3つの共同コミュニケの原則を守るべきだ」と主張し、「台湾独立勢力に誤ったシグナルを送るべきでない」と、米側の対応を非難した。
蔡英文が訪米し、米国がそれを歓迎しただけで猛反発した中共。民進党は「平和的発展」に背く危険な「台湾独立勢力」という印象が、この記事からはしっかりと伝わってくる。
このように向こうの報道官の言葉を論評抜きで報じるのは関心しない。それだけで中共のプロパガンダの手助けとなるからだ。
■「台湾は中国の一部」と認めろとの無理難題
ちなみに、いつもながらのことだが、馬暁光はこの日、次のようにも述べている。
「我々はいかなる人がいかなる形式であれ、国際社会で台独分裂活動を行うことに断固反対する。我々の民進党に対する政策は明確で一貫している」
「台独に反対し、九二年コンセンサス(台中間の「一つの中国」で合意したとされる)を堅持することは両岸の関係と平和的発展の政治的基礎であり、その核心は大陸と台湾が同じく一つの中国に属することを認めるにある」
そして米国滞在中の蔡英文に、次の如き無理難題を推し付けるのだ。
「民進党指導者は今回米国で両岸問題に関してあれこれ話しているが、しかし最も核心的な問題に関してはっきりと話していない」
「両岸関係は国と国との関係ではない。民進党に最も説明が求められているのは、両岸はいかなる関係であるかについてだ」
これを読めば、中共が民進党の何に不満で、そしてそれに何を強要しているかがはっきりすると思う。要するに「台湾は主権独立国家ではなく中国の一部であると明言せよ。それさえ行うなら、我々は民進党とも平和的発展を約束してやる」と求めているのだ。
こんなものを受け入れないからと言って、民進党をトラブルメーカーと呼ぶのが中共、そして国民党。こんなデタラメな宣伝に日本のメディアはうっかり乗らない方がいい。
■メディアは「中共こそがトラブルメーカーは」と報ずべし
台湾が中国に隷属しない主権独立国家であるのは事実だが、民進党がこの事実を強調することを、中共は「台独分裂活動」だと騒ぎ立て、「平和的発展に背く」と非難するのである。
ちなみにこの「平和的発展」だが、その「発展」の行き着く先はもちろん「平和統一」(協議による台湾併呑)。強引に台湾を自国領に編入しようという訳だから、これは「侵略」である。
なぜ民進党は中国の要求に従い、自ら進んで自国の存在を否定し、あの国の侵略を受容しなければならないのか。
そしてなぜ米国まで、民進党と交流しただけで「平和的発展に背く」と非難されなくてはならないのか。
ここまで書けば明らかだろう。トラブルメーカーと呼ばれる民進党が悪いのではなく、そのように大々的に宣伝する中共が悪いのだ。しかも真のトラブルメーカーの中共だ。
ところが、そのことをはっきりと伝える報道は、日本ではこれまでとても少ない。
■中共が支持するのは国民党と言う亡国勢力
翻って中共の国民党に対する態度を見てみよう。
日本経済新聞が十八日に配信した記事“中国、台湾与党の総統候補を歓迎”が参考になる。こう報じている。
―――中国の国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は18日、台湾の与党・国民党が洪秀柱・立法院副院長(国会副議長)を2016年1月の総統選挙の公認候補に内定したことに関し「台湾独立に反対し、両岸(中台)関係の平和的発展を促すのなら、どんな政党や個人でも歓迎する」との談話を発表した。
―――「台湾の選挙には介入せず、評論しない」と断ってはいるが、中台融和志向の強い洪氏を歓迎する姿勢を示したものだ。
この報道の通りだ。
「一つの中国」を掲げ、台中関係は「国と国との関係ではない」「国際関係ではない」として、台湾が一つの主権独立国家であるとの現状を否定する国民党は恐るべき亡国勢力。中共としては台湾亡国の日まで、何としてでも国民党に政権を握らせ続けたいのである。
民進党に批判的な日本のメディアは、まさかこんな国民党をピースメーカーと呼びたがっているのだろうか。同じ「中台融和志向」を持つ者として。
■軍事演習も中共による国民党への選挙応援
そして中共は国民党への「選挙応援」を、とっくに開始している。
上で見たような、民進党をトラブルメーカー視する対外宣伝は明らかにそれだし、先日のバシー海峡での台湾上陸を想定した軍事演習ですら、民進党やその支持者に対する「恫喝」と言う名の立派な「応援」だ。
とんでもない覇権主義国家であるわけだが、それでも日本のメディアはこの国と歩調を合わせ、民進党をトラブルメーカーとする印象操作を続けるのか。
民進党は台湾が主権国家と強調するが、日本政府は台湾を「国」とは承認せず、そのためこれを「地域」と呼んでいる。
しかしそれは「中国の地域」と言う意味ではないし、実際には台湾を事実上の国家と認めていることは、今の日台関係・交流の実態を見ても明らかなのだが、日本のメディアの特色は、中国への配慮ででき得る限り台湾を「中国の地域」と位置付けようとすることだ。
そのため民進党についても、中国からの「台独分裂勢力」と位置付けてしまうのだろう。そしてその「独立分裂」の動きこそ、情勢の緊張(トラブル)の源であり、中共が怒るのも理解できると言いたいのではないか。
■「台湾独立」は「中華人民共和国からの独立」ではない
しかし台湾は南モンゴル、チベット、東トルキスタンなどのように中共の侵略、支配を受けておらず、それからの「台湾独立」と言う問題は存在していないのである。
中共への迎合は誤報の元だ。メディア各社は「民進党」と報じる時、枕詞のように「台湾独立志向が強い」と表現するが、そもそも「台湾独立」と言うのは「台湾人民の中華民国体制からの独立・建国」を指すものであり、「中華人民共和国からの分離・独立」などではない。
ちなみに民進党は、かつて掲げていた中華民国からの独立と言う目標を、すでに十六年も前に凍結している。そしてもちろん中華人民共和国からの独立を「志向」したことも、あるわけがない。
メディア各社は、こうした事情を知った上で「台湾独立志向が強い民進党」などと報じているのかは、はなはだ疑問である。
たとえば以下は五月十三日の日経の記事。
―――(国台弁の)范麗青報道官は13日の記者会見で、(中略)蔡英文主席が5月末から米国を訪問することについて「我々はいかなる人が、いかなる形であろうと、国際的に台湾独立の分裂活動を行うことに断固反対する」と述べた。民進党が米国で台湾独立を志向する自らの政策への理解を求めることをけん制する発言だ。
ここで范麗青の言う蔡英文の「台湾独立の分裂活動」とは「中華人民共和国からの独立活動」。したがって日経が書く民進党の「台湾独立を志向する政策」も「中国からの独立を志向する政策」となるが、そんな政策があるわけない(後日、日経はこの報道が誤りであることを認めた)。
■メディアはそれでも中共の側に立って報道するか
最新の話題を紹介しよう。こんなことがあった。
蔡英文が米誌タイムのアジア版(六月二十九日号)の表紙を飾ったが、これに対して支持者層、特に真の意味での台湾独立論者たちから不満の声が上がった。そこに書かれた見出しが気に入らなかったのだ。
「彼女は中国唯一の民主主義を指導するかも知れない。そしてそれが北京をナーバスにさせる」(She could lead the only Chinese democracy and that makes Beijing nervous)がそれである。
台湾の民主主義を「中国の民主主義」と呼ぶとは何事かと怒ったわけだ。
一方、これに対する中共の反応はどうか。「中国の民主主義」と書いた見出しは、米国で「台湾は中国の一部」とのプロパガンダが浸透していることを物語っているわけだから、それで満足かと言えば。断じてそうではないらしい。
中国軍の宣伝工作機関ともいうべき香港の鳳凰(フェニックス)テレビのニュースサイトは、この表紙の写真を掲載した際、この見出しにモザイクをかけた。要するに「中国の民主主義」の「民主主義」が気に入らなかったのだ。
蔡英文は米国での講演で、「多くのアジア国の人民がいまだ権威主義統治に耐えている中、台湾がすでに民主主義を確立していることを誇りに思う。アジアが民族主義、拡張主義、拡大する軍事衝突の脅威に直面した時、私達は積極的平和主義外交に力を致し、地域の平和と安定のために貢献したい」と述べたが、中共の民族主義、拡張主義は、そのような民進党の民主主義と、それから来る積極的平和主義が許せないのである。

タイムの表紙を飾った蔡英文。中共メディアは「デモクラシー」と書かれた見出しにモザイクを(右)
それでもメディア各社は、なおも民進党を牽制するかのような、中国迎合の報道を続けるのか。台湾問題なら一般国民の関心度、認知度は高くあるまいと踏んで、思い切りあの国を喜ばせようと捏造、偏向をやっているようにすら見えることもある。
【過去の関連記事】
2016台湾総統選挙―民進党と親中・国民党の「対中関係」定義の異なり 15/06/11
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2580.html
日経―中国の観点で報じる台湾総統選挙の動向 15/06/12
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2581.html
日経の台湾報道に警戒を!ここまで大胆な中国迎合、事実捏造! 15/06/14
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2583.html
民進党と国民党―日本が友とすべきは 15/06/18
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2586.html
台湾総統選の国民党候補に洪秀柱ー中共も期待の中華民族主義者 15/06/19
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2587.html
台湾の民主は中華文化と無関係ー2016総統選挙は「中華」脱却の戦い 15/06/20
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2588.html
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台湾で来年一月に行われる総統選挙は、中共が期待する国民党候補と、警戒する民進党候補との一騎打ちになる見通し。
前者には洪秀柱立法院副院長が内定し、後者は蔡英文・党主席に正式決定しているが、すでに日本の一部メディアからも、もし蔡英文が当選すれば、中共は台湾海峡の緊張を高めるのではないかとの懸念が示されている。

5月末から6月上旬にかけて訪米した民進党の総統候補、蔡英文。
これに関する中共の反応、日本のメディアの反応とは
台湾の統一(併呑)を目論む中共の文攻武嚇(宣伝攻撃、武力恫喝)に抵抗を諦めつつあるのが国民党で、諦めないのが民進党。だから民進党政権が発足すれば、当然のことながら中共は緊張を高めるわけであるが、それについて日本のメディアには、その民進党を平和と安定を破壊しかねないトラブルメーカー視する傾向がある。
たとえば昨年十二月三日の産経新聞社説を見よう。
台湾統一地方選挙で「台湾独立色の強い民進党」が躍進して次期総統選挙をにらんでいるのを受け、次の如く同党に対し懸命に自重を求めていたのが印象に残る。
「台湾の『安定と繁栄』を担保しつつ、台湾海峡を挟む両岸関係を安定させる現実に即した対中政策を打ち出すことが求められよう」
「両岸関係の安定は、微妙なバランスの上に成り立つ。(中略)独立に傾けば緊張が高まることにつながる」
「台湾住民のほぼ8割は、台湾の『現状維持』を望んでいる」
「台湾の繁栄と地域の安定には経済、安全保障の両面で均衡が不可欠だ。日米を含む国際社会の現実的な利益もまさにそこにある」
ちなみにこの社説は、実際には「緊張」を一方的に高める中共については何も触れていない。だからこれを読む限り、台湾だけが隠忍自重することが、「日米を含む国際社会の現実的な利益」に繋がると受け取れる。
「両岸関係を安定させる現実に即した対中政策」を打ち出せなどと注文するが、その「現実」というものを知っているのだろうか。後でも書くように「両岸関係を安定させる」には台湾が国家主権を自己否定する以外にないのだが、それでいいのか。
もともと同党をトラブルメーカーだと強調するのは中共及び国民党だが(両者は反民進党で連携している)、日本のメディアまでもが、恐喝の加害者ではなく被害者を悪者扱いにする宣伝に与したいようだ。
国民党と同様、中共に屈服して善悪の判断が付かなくなっているのだろうか。
■民進党は「平和に背く危険な台湾独立勢力」との印象

蔡英文訪米の牽制発言を繰り返した中国国台弁の馬暁光報道官
さてその民進党だが、産経は同党が早くも中共を刺激している様子を伝えている。六月十日の配信記事“中国、台湾野党主席と会談した米を批判 「平和的発展に背く」”を見てみよう。
―――中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は10日の記者会見で、米高官が訪米した台湾野党、民主進歩党(民進党)の蔡英文主席と会談したことを、「台湾海峡の平和と安定、両岸(中国と台湾)関係の平和的発展に背くものだ」と強く批判した。
―――中国側は、ブリンケン国務副長官らが、レストランなどではなく、米国務省で会談に応じたことに強く反発。馬報道官は「米側は適切に、1つの中国政策と中米間の3つの共同コミュニケの原則を守るべきだ」と主張し、「台湾独立勢力に誤ったシグナルを送るべきでない」と、米側の対応を非難した。
蔡英文が訪米し、米国がそれを歓迎しただけで猛反発した中共。民進党は「平和的発展」に背く危険な「台湾独立勢力」という印象が、この記事からはしっかりと伝わってくる。
このように向こうの報道官の言葉を論評抜きで報じるのは関心しない。それだけで中共のプロパガンダの手助けとなるからだ。
■「台湾は中国の一部」と認めろとの無理難題
ちなみに、いつもながらのことだが、馬暁光はこの日、次のようにも述べている。
「我々はいかなる人がいかなる形式であれ、国際社会で台独分裂活動を行うことに断固反対する。我々の民進党に対する政策は明確で一貫している」
「台独に反対し、九二年コンセンサス(台中間の「一つの中国」で合意したとされる)を堅持することは両岸の関係と平和的発展の政治的基礎であり、その核心は大陸と台湾が同じく一つの中国に属することを認めるにある」
そして米国滞在中の蔡英文に、次の如き無理難題を推し付けるのだ。
「民進党指導者は今回米国で両岸問題に関してあれこれ話しているが、しかし最も核心的な問題に関してはっきりと話していない」
「両岸関係は国と国との関係ではない。民進党に最も説明が求められているのは、両岸はいかなる関係であるかについてだ」
これを読めば、中共が民進党の何に不満で、そしてそれに何を強要しているかがはっきりすると思う。要するに「台湾は主権独立国家ではなく中国の一部であると明言せよ。それさえ行うなら、我々は民進党とも平和的発展を約束してやる」と求めているのだ。
こんなものを受け入れないからと言って、民進党をトラブルメーカーと呼ぶのが中共、そして国民党。こんなデタラメな宣伝に日本のメディアはうっかり乗らない方がいい。
■メディアは「中共こそがトラブルメーカーは」と報ずべし
台湾が中国に隷属しない主権独立国家であるのは事実だが、民進党がこの事実を強調することを、中共は「台独分裂活動」だと騒ぎ立て、「平和的発展に背く」と非難するのである。
ちなみにこの「平和的発展」だが、その「発展」の行き着く先はもちろん「平和統一」(協議による台湾併呑)。強引に台湾を自国領に編入しようという訳だから、これは「侵略」である。
なぜ民進党は中国の要求に従い、自ら進んで自国の存在を否定し、あの国の侵略を受容しなければならないのか。
そしてなぜ米国まで、民進党と交流しただけで「平和的発展に背く」と非難されなくてはならないのか。
ここまで書けば明らかだろう。トラブルメーカーと呼ばれる民進党が悪いのではなく、そのように大々的に宣伝する中共が悪いのだ。しかも真のトラブルメーカーの中共だ。
ところが、そのことをはっきりと伝える報道は、日本ではこれまでとても少ない。
■中共が支持するのは国民党と言う亡国勢力
翻って中共の国民党に対する態度を見てみよう。
日本経済新聞が十八日に配信した記事“中国、台湾与党の総統候補を歓迎”が参考になる。こう報じている。
―――中国の国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は18日、台湾の与党・国民党が洪秀柱・立法院副院長(国会副議長)を2016年1月の総統選挙の公認候補に内定したことに関し「台湾独立に反対し、両岸(中台)関係の平和的発展を促すのなら、どんな政党や個人でも歓迎する」との談話を発表した。
―――「台湾の選挙には介入せず、評論しない」と断ってはいるが、中台融和志向の強い洪氏を歓迎する姿勢を示したものだ。
この報道の通りだ。
「一つの中国」を掲げ、台中関係は「国と国との関係ではない」「国際関係ではない」として、台湾が一つの主権独立国家であるとの現状を否定する国民党は恐るべき亡国勢力。中共としては台湾亡国の日まで、何としてでも国民党に政権を握らせ続けたいのである。
民進党に批判的な日本のメディアは、まさかこんな国民党をピースメーカーと呼びたがっているのだろうか。同じ「中台融和志向」を持つ者として。
■軍事演習も中共による国民党への選挙応援
そして中共は国民党への「選挙応援」を、とっくに開始している。
上で見たような、民進党をトラブルメーカー視する対外宣伝は明らかにそれだし、先日のバシー海峡での台湾上陸を想定した軍事演習ですら、民進党やその支持者に対する「恫喝」と言う名の立派な「応援」だ。
とんでもない覇権主義国家であるわけだが、それでも日本のメディアはこの国と歩調を合わせ、民進党をトラブルメーカーとする印象操作を続けるのか。
民進党は台湾が主権国家と強調するが、日本政府は台湾を「国」とは承認せず、そのためこれを「地域」と呼んでいる。
しかしそれは「中国の地域」と言う意味ではないし、実際には台湾を事実上の国家と認めていることは、今の日台関係・交流の実態を見ても明らかなのだが、日本のメディアの特色は、中国への配慮ででき得る限り台湾を「中国の地域」と位置付けようとすることだ。
そのため民進党についても、中国からの「台独分裂勢力」と位置付けてしまうのだろう。そしてその「独立分裂」の動きこそ、情勢の緊張(トラブル)の源であり、中共が怒るのも理解できると言いたいのではないか。
■「台湾独立」は「中華人民共和国からの独立」ではない
しかし台湾は南モンゴル、チベット、東トルキスタンなどのように中共の侵略、支配を受けておらず、それからの「台湾独立」と言う問題は存在していないのである。
中共への迎合は誤報の元だ。メディア各社は「民進党」と報じる時、枕詞のように「台湾独立志向が強い」と表現するが、そもそも「台湾独立」と言うのは「台湾人民の中華民国体制からの独立・建国」を指すものであり、「中華人民共和国からの分離・独立」などではない。
ちなみに民進党は、かつて掲げていた中華民国からの独立と言う目標を、すでに十六年も前に凍結している。そしてもちろん中華人民共和国からの独立を「志向」したことも、あるわけがない。
メディア各社は、こうした事情を知った上で「台湾独立志向が強い民進党」などと報じているのかは、はなはだ疑問である。
たとえば以下は五月十三日の日経の記事。
―――(国台弁の)范麗青報道官は13日の記者会見で、(中略)蔡英文主席が5月末から米国を訪問することについて「我々はいかなる人が、いかなる形であろうと、国際的に台湾独立の分裂活動を行うことに断固反対する」と述べた。民進党が米国で台湾独立を志向する自らの政策への理解を求めることをけん制する発言だ。
ここで范麗青の言う蔡英文の「台湾独立の分裂活動」とは「中華人民共和国からの独立活動」。したがって日経が書く民進党の「台湾独立を志向する政策」も「中国からの独立を志向する政策」となるが、そんな政策があるわけない(後日、日経はこの報道が誤りであることを認めた)。
■メディアはそれでも中共の側に立って報道するか
最新の話題を紹介しよう。こんなことがあった。
蔡英文が米誌タイムのアジア版(六月二十九日号)の表紙を飾ったが、これに対して支持者層、特に真の意味での台湾独立論者たちから不満の声が上がった。そこに書かれた見出しが気に入らなかったのだ。
「彼女は中国唯一の民主主義を指導するかも知れない。そしてそれが北京をナーバスにさせる」(She could lead the only Chinese democracy and that makes Beijing nervous)がそれである。
台湾の民主主義を「中国の民主主義」と呼ぶとは何事かと怒ったわけだ。
一方、これに対する中共の反応はどうか。「中国の民主主義」と書いた見出しは、米国で「台湾は中国の一部」とのプロパガンダが浸透していることを物語っているわけだから、それで満足かと言えば。断じてそうではないらしい。
中国軍の宣伝工作機関ともいうべき香港の鳳凰(フェニックス)テレビのニュースサイトは、この表紙の写真を掲載した際、この見出しにモザイクをかけた。要するに「中国の民主主義」の「民主主義」が気に入らなかったのだ。
蔡英文は米国での講演で、「多くのアジア国の人民がいまだ権威主義統治に耐えている中、台湾がすでに民主主義を確立していることを誇りに思う。アジアが民族主義、拡張主義、拡大する軍事衝突の脅威に直面した時、私達は積極的平和主義外交に力を致し、地域の平和と安定のために貢献したい」と述べたが、中共の民族主義、拡張主義は、そのような民進党の民主主義と、それから来る積極的平和主義が許せないのである。


タイムの表紙を飾った蔡英文。中共メディアは「デモクラシー」と書かれた見出しにモザイクを(右)
それでもメディア各社は、なおも民進党を牽制するかのような、中国迎合の報道を続けるのか。台湾問題なら一般国民の関心度、認知度は高くあるまいと踏んで、思い切りあの国を喜ばせようと捏造、偏向をやっているようにすら見えることもある。
【過去の関連記事】
2016台湾総統選挙―民進党と親中・国民党の「対中関係」定義の異なり 15/06/11
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2580.html
日経―中国の観点で報じる台湾総統選挙の動向 15/06/12
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2581.html
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http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2583.html
民進党と国民党―日本が友とすべきは 15/06/18
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2586.html
台湾総統選の国民党候補に洪秀柱ー中共も期待の中華民族主義者 15/06/19
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台湾の民主は中華文化と無関係ー2016総統選挙は「中華」脱却の戦い 15/06/20
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