台湾総統選の国民党候補に洪秀柱ー中共も期待の中華民族主義者
2015/06/19/Fri
■台湾の総統候補に指名された中華民族主義者
台湾の与党国民党中央常務委員会は六月十七日、総統選挙の党公認候補に、洪秀柱・立法院副院長(国会副議長)を指名した。
七月一九日の全国代表大会で正式に選出され、来年一月の選挙では、政権奪還を目指す最大野党、民進党の蔡英文候補と鎬を削ることになる。

国民党中常委から総統選の公認候補に指名された洪秀柱・立法院副院長
洪秀柱の父親は一九四六年に台湾へ赴任した中国(当時は中華民国)の役人で、彼女はその二年後に台湾で生まれた。つまり馬英九総統と同じく所謂外省人(在台中国人)で、強烈な中華民族主義者でもある。
国民党系メディアの中国時報は、彼女を「中華民国派」と呼ぶ。
有権者に対し、蔡英文が「台湾独立派」、つまり「一つの中国」を掲げる中華民国体制を否定し、中国との間で緊張を高めるトラブルメーカーであり、それに対して洪秀柱はピースメーカーだと宣伝したいのだろう。
しかし蔡英文が「台湾独立派」であるかについては、本人が多くを語らないため、よくわからない。
■「一つの中国」を認めない蔡英文を憎悪する国民党
蔡英文は「一つの中国」なる虚構は否定するが、中華民国体制の打倒は口にしていない。

民進党の公認候補は蔡英文同党主席
一九九九年に李登輝総統が主張した「二国論」(「中華民国は主権国家。両岸は国と国との関係。独立の再宣言は必要ない」)を考案したブレーンの中心が蔡英文だった。
二〇〇二年による陳水扁総統の「一辺一国」(「台湾は主権国家。台湾と対岸の中国とは別々の国」)との表明にも、当時大陸委員会主任委員(閣僚)だった蔡英文は深く関与していたと見られる。
民進党は現在、元来の台湾独立という目標を棚上げし、「台湾の主権独立はすでに社会的コンセンサス。台湾は現在の憲法に従えば中華民国と称する。しかし中華人民共和国とはお互いに隷属しない」(一九九九年の台湾前途決議文)との立場をとっており、それはまた蔡英文の立場でもある。
もっとも「一つの中国」を受け入れない蔡英文は、国民党、あるいは中共の中華民族主義にかかれば、断じて許し難き「台湾独立派」とはなるわけだ。
一方、これと戦う洪秀柱の台中関係に関する見方はどうか。
■「中華民国派」と言うより亡国の「中華人民共和国派」
「一中同表」(両岸は「一つの中国」の解釈を共有する)がそれである。
つまり「両岸は全中国の一部分であり、主権の主張は重畳し、憲政治権は分立している」「両岸は全中国内部の二つの憲政政府」「両岸関係は国際関係ではなく、全中国の内部問題」というものだ。
「全中国内部」に「中華民国」と「中華人民共和国」との二つの政府が存在し、それぞれが主張する領土は「重畳」しているというわけだが、中華人民共和国政府の主権が全中国に及ぶのは事実であっても、中華民国の主権が台湾及び中国全域に及ぶなどとする主張など、世界には通用しない国内向けのフィクション(洗脳宣伝)である。
そもそも中国は断じて中華民国の存在を認めない。そのため同国への迎合姿勢を強める同党は、中国要人の前では決して「中華民国」を口にしないのだ。
したがって、中華民国を台湾人民の主権独立国家であると位置付ける蔡英文の方が、むしろ「中華民国派」であり、それに比して洪秀柱は、亡国の「中華人民共和国派」とも言えるだろう。
中共は洪秀柱の「一中同表」の主張を高く評価している。その「一中」(一つの中国)の「中国」には、「中華人民共和国」の響きがあるからだろう。
■台湾人意識の高まりに危機感を抱く政治勢力
この亡国勢力の国内における今の動きを見てみよう。

馬英九総統(左)の中国迎合路線の継承者には相応しい
李登輝、陳水扁時代は国民党独裁体制からの脱却、すなわち民主化、台湾化の時代であり、その間において台湾の人々も、それまで抑圧されて来た台湾人意識を大いに高めたのだが、それを促したものの一つに中学、高校での台湾史教科書の導入があった。
それまで学校が教える本国史と言えば、台湾史を除外した中国史。中国人化を目的とした政治的な大中国史観を刷り込んで来たが、台湾人の理性がそれを改め、史実重視の教育が行われた。
これに危機感を抱いたのが国民党の外省人の政治勢力だ。この勢力は中国人が台湾人を支配する旧体制の復活を望んでおり、そうした教科書を「台独教科書」と呼んで非難して来た。
そしてそれと同様の批判を繰り広げて来たのが、台湾人意識を台湾併呑の大障害と見る中共である。外省人勢力はこの中共に迎合、呼応するためにも、大中国史観を復活に躍起となった。
かくて二〇一四年、馬英九政権は予定外の高校用学習指導要領(課綱)の改訂を行った。たとえば台湾史の課綱は「微調整」という名の大幅改定を行い(従来の課綱の六〇・四%を改定)、台湾史を中国史の一環と位置付け、その独自性を薄めるために数々の史実捏造、歪曲を加えた。
そしてこの課綱に沿った教科書が、今年九月の新学期から使用されることになる。
■元教員の洪秀柱―洗脳教育の復活を求める
まさに洗脳教育再開の動きであり、民主主義の危機である。そしてそれは中国への台湾売却の準備にも見えてならない。
そこで現在、これに対して全国の高校生までもが抗議活動を拡大中で、国民党は高校生版の太陽花(ヒマワリ)学生運動に発展しかねないと危惧しているところだ。
こうした情勢について蔡英文は、「高校生はここまで民主、公民意識を持っている。台湾に未来に希望が持てる」と評価する。
それに対して「両岸の共通点は中華文化。それを宣揚しなければならない」が持論の洪秀柱の見方や如何に。
十八日にラジオ番組で、こう言い放って物議を醸している。
「課綱の微調整内容をよく見たが、まったく調整が足りない」「李登輝、陳水扁時代、歴史の課綱の内容は百八十度変わった。そこで今回は軌道を元に戻しただけだ」と。

ラジオ番組で「歴史教科書の学習指導要領はもっと改訂すべき」と言い放った洪秀柱。洗脳教育の復活を望む発言だ
そして「課綱が百八十度変わり、そうした教育を太陽花学生運動の世代は受けている」との番組司会者の言葉に、洪秀柱は「その通りだ」と頷いている。
国民党独裁時代に中学校の教員だった洪秀柱。さぞや台湾の子供たちに残酷な洗脳教育を施していたことだろう。
■中国統一のための平和協定を締結したい国民党
台湾を中国に献上したいのだろうか。洪秀中は十六日、自らの対中国政策を、次のようにメディアに語っている。
「両岸間で平和協定を締結したい」と。
この平和協定とは、国民党と中共間の内戦を終結させ、政治的、軍事的対立を解消するためのもので、中共の胡錦濤総書記が二〇〇五年、国民党の連戦主席との会見で提案したものだ。胡錦濤は〇七年の中共第十七回全国代表大会でもこれに言及している。
これに飛び付いたのが国民党である。馬英九もそれに応じる意向だった。たとえば二〇一二年の総統選挙に先立ち、自らの今後の対中政策を論じた際、「平和協定の締結を排除しない」と強調した。
ところが台湾国民はこれに猛反撥した。なぜなら「平和協定は台湾を併呑するためのもの」(李登輝元総統)だからだ。中共にとってこの協定は、「統一」に向けた協定に他ならないのだ。
胡錦濤自身も二〇〇八年の台湾問題に関する「重要講話」で、平和協定の締結を「国家未統一という特殊な状況下の政治関係」を打開するものと位置付けている。
この選挙への出馬を決めていた蔡英文も、中共が一九五〇年にチベットと平和協定を結び、その結果チベットが中共の弾圧下に置かれたことを例に挙げ、「台湾の主権を犠牲にし、台湾海峡の現状を改変し、民主的価値の危機をもたらし、戦略的縦走を破壊する」と、馬英九を批判した。
■支持率の低さを中共の支援で補う気か
そのため、任期内での中共指導者との平和協定締結でノーベル平和賞を狙っているともささやかれた馬英九だが、締結の条件として「民意の高い支持、国家の確実な需要、国会の監督」を掲げ、「住民投票を行う」とも強調し、自ら任期内での締結を諦めている。
そうした経緯があるにもかかわらず、洪秀柱は堂々と平和協定締結の目標を掲げ、「馬英九総統は民意の反撥を恐れて言及しなくなったが、しかしそれが台湾人民にとりいいものなら、はっきりと話さなくてはならない」とし、こう述べたのだ。
「民衆は統一されることを恐れているが、私達が求める統一は自由、民主、法治下でのものだ」
「私達は武力で大陸反攻はできないが、しかし私達の制度で中国十三億の民心を吸収することができる。三民主義の模範生として、彼らを羨ましがらせ、勉強させなくてはならない」
この「三民主義で中国統一」とは、国民党独裁時代の蒋経国総統が掲げた虚勢のスローガンだが、こんなものを持ち出したところで、十三億の中国人からは馬鹿にされるだけだ。そもそも中共の前で「中華民国」の国号すら持ち出せない国民党政権は、あの国の民心をどう「吸収」するというのか。
つまりこれもまた、国内向けの宣伝なのだ。もちろん今時これに惑わされる国民などいないわけだが。
また洪秀柱はこうも語る。「対岸の脅威を台湾のチャンスに変えたい。巨人の肩の上に立ち、この有利な形勢の下で立ち上がるのだ」と。これは中共の「一国二制度」を受け入れ、中共とともに「中華民族の偉大なる復興」を目指そうということか。「巨人(中国)の肩」に乗るにはそうするしかないはずだ。
民進党など台湾人勢力に権力の座を脅かされ、背水の陣を敷く馬英九及び国民党内の外省人勢力は、実に恐るべき候補者を押し出した。
こうした「統一」に前向きな姿勢が、中共には喜ばれるのである。おそらくこれは中共への迎合メッセージなのだろう。支持率で蔡英文に遥かに劣る彼女には、どうしても中共の「支援」(民進党牽制の宣伝、恫喝)が必要。中華民族主義者は敵を打倒し、自らの利益を守り拡大するためなら手段を選ばない。
中共もまた国民党を操縦して、台湾の主権独立国家たる現状を守らんとする「台独」勢力を殲滅しようと、ウズウズしているはずである。

中国統一を目指す習近平(右)も洪秀柱に有形無形の支援を与えることだろう
【過去の関連記事】
2016台湾総統選挙―民進党と親中・国民党の「対中関係」定義の異なり 15/06/11
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2580.html
日経―中国の観点で報じる台湾総統選挙の動向 15/06/12
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2581.html
日経の台湾報道に警戒を!ここまで大胆な中国迎合、事実捏造! 15/06/14
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2583.html
民進党と国民党―日本が友とすべきは 15/06/18
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2586.html
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台湾の与党国民党中央常務委員会は六月十七日、総統選挙の党公認候補に、洪秀柱・立法院副院長(国会副議長)を指名した。
七月一九日の全国代表大会で正式に選出され、来年一月の選挙では、政権奪還を目指す最大野党、民進党の蔡英文候補と鎬を削ることになる。

国民党中常委から総統選の公認候補に指名された洪秀柱・立法院副院長
洪秀柱の父親は一九四六年に台湾へ赴任した中国(当時は中華民国)の役人で、彼女はその二年後に台湾で生まれた。つまり馬英九総統と同じく所謂外省人(在台中国人)で、強烈な中華民族主義者でもある。
国民党系メディアの中国時報は、彼女を「中華民国派」と呼ぶ。
有権者に対し、蔡英文が「台湾独立派」、つまり「一つの中国」を掲げる中華民国体制を否定し、中国との間で緊張を高めるトラブルメーカーであり、それに対して洪秀柱はピースメーカーだと宣伝したいのだろう。
しかし蔡英文が「台湾独立派」であるかについては、本人が多くを語らないため、よくわからない。
■「一つの中国」を認めない蔡英文を憎悪する国民党
蔡英文は「一つの中国」なる虚構は否定するが、中華民国体制の打倒は口にしていない。

民進党の公認候補は蔡英文同党主席
一九九九年に李登輝総統が主張した「二国論」(「中華民国は主権国家。両岸は国と国との関係。独立の再宣言は必要ない」)を考案したブレーンの中心が蔡英文だった。
二〇〇二年による陳水扁総統の「一辺一国」(「台湾は主権国家。台湾と対岸の中国とは別々の国」)との表明にも、当時大陸委員会主任委員(閣僚)だった蔡英文は深く関与していたと見られる。
民進党は現在、元来の台湾独立という目標を棚上げし、「台湾の主権独立はすでに社会的コンセンサス。台湾は現在の憲法に従えば中華民国と称する。しかし中華人民共和国とはお互いに隷属しない」(一九九九年の台湾前途決議文)との立場をとっており、それはまた蔡英文の立場でもある。
もっとも「一つの中国」を受け入れない蔡英文は、国民党、あるいは中共の中華民族主義にかかれば、断じて許し難き「台湾独立派」とはなるわけだ。
一方、これと戦う洪秀柱の台中関係に関する見方はどうか。
■「中華民国派」と言うより亡国の「中華人民共和国派」
「一中同表」(両岸は「一つの中国」の解釈を共有する)がそれである。
つまり「両岸は全中国の一部分であり、主権の主張は重畳し、憲政治権は分立している」「両岸は全中国内部の二つの憲政政府」「両岸関係は国際関係ではなく、全中国の内部問題」というものだ。
「全中国内部」に「中華民国」と「中華人民共和国」との二つの政府が存在し、それぞれが主張する領土は「重畳」しているというわけだが、中華人民共和国政府の主権が全中国に及ぶのは事実であっても、中華民国の主権が台湾及び中国全域に及ぶなどとする主張など、世界には通用しない国内向けのフィクション(洗脳宣伝)である。
そもそも中国は断じて中華民国の存在を認めない。そのため同国への迎合姿勢を強める同党は、中国要人の前では決して「中華民国」を口にしないのだ。
したがって、中華民国を台湾人民の主権独立国家であると位置付ける蔡英文の方が、むしろ「中華民国派」であり、それに比して洪秀柱は、亡国の「中華人民共和国派」とも言えるだろう。
中共は洪秀柱の「一中同表」の主張を高く評価している。その「一中」(一つの中国)の「中国」には、「中華人民共和国」の響きがあるからだろう。
■台湾人意識の高まりに危機感を抱く政治勢力
この亡国勢力の国内における今の動きを見てみよう。

馬英九総統(左)の中国迎合路線の継承者には相応しい
李登輝、陳水扁時代は国民党独裁体制からの脱却、すなわち民主化、台湾化の時代であり、その間において台湾の人々も、それまで抑圧されて来た台湾人意識を大いに高めたのだが、それを促したものの一つに中学、高校での台湾史教科書の導入があった。
それまで学校が教える本国史と言えば、台湾史を除外した中国史。中国人化を目的とした政治的な大中国史観を刷り込んで来たが、台湾人の理性がそれを改め、史実重視の教育が行われた。
これに危機感を抱いたのが国民党の外省人の政治勢力だ。この勢力は中国人が台湾人を支配する旧体制の復活を望んでおり、そうした教科書を「台独教科書」と呼んで非難して来た。
そしてそれと同様の批判を繰り広げて来たのが、台湾人意識を台湾併呑の大障害と見る中共である。外省人勢力はこの中共に迎合、呼応するためにも、大中国史観を復活に躍起となった。
かくて二〇一四年、馬英九政権は予定外の高校用学習指導要領(課綱)の改訂を行った。たとえば台湾史の課綱は「微調整」という名の大幅改定を行い(従来の課綱の六〇・四%を改定)、台湾史を中国史の一環と位置付け、その独自性を薄めるために数々の史実捏造、歪曲を加えた。
そしてこの課綱に沿った教科書が、今年九月の新学期から使用されることになる。
■元教員の洪秀柱―洗脳教育の復活を求める
まさに洗脳教育再開の動きであり、民主主義の危機である。そしてそれは中国への台湾売却の準備にも見えてならない。
そこで現在、これに対して全国の高校生までもが抗議活動を拡大中で、国民党は高校生版の太陽花(ヒマワリ)学生運動に発展しかねないと危惧しているところだ。
こうした情勢について蔡英文は、「高校生はここまで民主、公民意識を持っている。台湾に未来に希望が持てる」と評価する。
それに対して「両岸の共通点は中華文化。それを宣揚しなければならない」が持論の洪秀柱の見方や如何に。
十八日にラジオ番組で、こう言い放って物議を醸している。
「課綱の微調整内容をよく見たが、まったく調整が足りない」「李登輝、陳水扁時代、歴史の課綱の内容は百八十度変わった。そこで今回は軌道を元に戻しただけだ」と。

ラジオ番組で「歴史教科書の学習指導要領はもっと改訂すべき」と言い放った洪秀柱。洗脳教育の復活を望む発言だ
そして「課綱が百八十度変わり、そうした教育を太陽花学生運動の世代は受けている」との番組司会者の言葉に、洪秀柱は「その通りだ」と頷いている。
国民党独裁時代に中学校の教員だった洪秀柱。さぞや台湾の子供たちに残酷な洗脳教育を施していたことだろう。
■中国統一のための平和協定を締結したい国民党
台湾を中国に献上したいのだろうか。洪秀中は十六日、自らの対中国政策を、次のようにメディアに語っている。
「両岸間で平和協定を締結したい」と。
この平和協定とは、国民党と中共間の内戦を終結させ、政治的、軍事的対立を解消するためのもので、中共の胡錦濤総書記が二〇〇五年、国民党の連戦主席との会見で提案したものだ。胡錦濤は〇七年の中共第十七回全国代表大会でもこれに言及している。
これに飛び付いたのが国民党である。馬英九もそれに応じる意向だった。たとえば二〇一二年の総統選挙に先立ち、自らの今後の対中政策を論じた際、「平和協定の締結を排除しない」と強調した。
ところが台湾国民はこれに猛反撥した。なぜなら「平和協定は台湾を併呑するためのもの」(李登輝元総統)だからだ。中共にとってこの協定は、「統一」に向けた協定に他ならないのだ。
胡錦濤自身も二〇〇八年の台湾問題に関する「重要講話」で、平和協定の締結を「国家未統一という特殊な状況下の政治関係」を打開するものと位置付けている。
この選挙への出馬を決めていた蔡英文も、中共が一九五〇年にチベットと平和協定を結び、その結果チベットが中共の弾圧下に置かれたことを例に挙げ、「台湾の主権を犠牲にし、台湾海峡の現状を改変し、民主的価値の危機をもたらし、戦略的縦走を破壊する」と、馬英九を批判した。
■支持率の低さを中共の支援で補う気か
そのため、任期内での中共指導者との平和協定締結でノーベル平和賞を狙っているともささやかれた馬英九だが、締結の条件として「民意の高い支持、国家の確実な需要、国会の監督」を掲げ、「住民投票を行う」とも強調し、自ら任期内での締結を諦めている。
そうした経緯があるにもかかわらず、洪秀柱は堂々と平和協定締結の目標を掲げ、「馬英九総統は民意の反撥を恐れて言及しなくなったが、しかしそれが台湾人民にとりいいものなら、はっきりと話さなくてはならない」とし、こう述べたのだ。
「民衆は統一されることを恐れているが、私達が求める統一は自由、民主、法治下でのものだ」
「私達は武力で大陸反攻はできないが、しかし私達の制度で中国十三億の民心を吸収することができる。三民主義の模範生として、彼らを羨ましがらせ、勉強させなくてはならない」
この「三民主義で中国統一」とは、国民党独裁時代の蒋経国総統が掲げた虚勢のスローガンだが、こんなものを持ち出したところで、十三億の中国人からは馬鹿にされるだけだ。そもそも中共の前で「中華民国」の国号すら持ち出せない国民党政権は、あの国の民心をどう「吸収」するというのか。
つまりこれもまた、国内向けの宣伝なのだ。もちろん今時これに惑わされる国民などいないわけだが。
また洪秀柱はこうも語る。「対岸の脅威を台湾のチャンスに変えたい。巨人の肩の上に立ち、この有利な形勢の下で立ち上がるのだ」と。これは中共の「一国二制度」を受け入れ、中共とともに「中華民族の偉大なる復興」を目指そうということか。「巨人(中国)の肩」に乗るにはそうするしかないはずだ。
民進党など台湾人勢力に権力の座を脅かされ、背水の陣を敷く馬英九及び国民党内の外省人勢力は、実に恐るべき候補者を押し出した。
こうした「統一」に前向きな姿勢が、中共には喜ばれるのである。おそらくこれは中共への迎合メッセージなのだろう。支持率で蔡英文に遥かに劣る彼女には、どうしても中共の「支援」(民進党牽制の宣伝、恫喝)が必要。中華民族主義者は敵を打倒し、自らの利益を守り拡大するためなら手段を選ばない。
中共もまた国民党を操縦して、台湾の主権独立国家たる現状を守らんとする「台独」勢力を殲滅しようと、ウズウズしているはずである。

中国統一を目指す習近平(右)も洪秀柱に有形無形の支援を与えることだろう
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