朝日社説の中国批判は中国擁護というトリック―南支那海問題
2015/06/05/Fri
■なぜ朝日は中国を擁護しにくくなったか
中国の南支那海での人工島建設を批判する六月二日の朝日新聞の社説「南シナ海問題 中国は埋め立て中止を」を読んだ。
近年、中国の覇権主義的な動きにしばしば非難の声を挙げる朝日だが、往年の媚中に徹した論調を思えば、「変わったな」と感じるのである。

もっとも朝日が「変わった」の原因は、中国にある。
鄧小平時代以降、「養光韜晦」(力を蓄えるまでは爪を隠す)との戦略を継続する間、朝日は中国の意に沿うように「中国脅威論」を否定する論調を堅持し、あの国の「永遠に覇を唱えず、永遠に覇を争わず」「平和を熱愛する」との宣伝を代弁し、「日中友好」(日本の中国への従属)を叫び続けていたのだが、その後、そうもいかなくなった。
なぜなら現在、習近平体制はすでに「養光韜晦」を放棄して拡張の野心を剥き出しにするばかりで、それに伴い国民の中国への警戒心や、朝日の媚中姿勢への批判の声も従来になく高まっており、もはやあの国の野心を隠蔽することは難しくなったためだ。
簡単に言えば、最早公然と中国を擁護できなくなり、批判的な姿勢を見せざるを得なくなっているわけだ。
■中国の人口島建設に痛烈な批判を加える朝日だが
今回にしても、中国の孫建国副総参謀長がアジア安全保障会議で、スプラトリー諸島での岩礁の埋め立て工事は軍事目的だと認める発言をしたのを受け、それに批判を加えないわけには行かなくなったのだろう。

南支那海での人口島建設が軍事目的と認めた孫建国副総参謀長。これを受け朝日も批判
せざるを得なくなった
下記のように、なかなか痛烈である。
―――全く容認できない発言である。この海域の岩礁は近隣国が領有権をめぐり争っている。力による一方的な既成事実化は明らかに国際ルールに反する。埋め立てを即刻中止すべきだ。
―――ファイアリークロス礁と呼ばれる環礁では、埋め立てによる滑走路が姿を現し、スプラトリーで最大の面積になろうとしている。これらを拠点に防空識別圏を設ける可能性がある。
―――中国政府が先週発表した国防白書は、陸軍よりも海軍に重点を置くとする海洋重視戦略を明確に掲げた。孫氏の発言はその線に沿ったものだ。
―――南シナ海への進出には、漁業資源や海底資源の確保に加え、重要海路を支配する軍事力を確立する狙いがあるとみられる。
―――他国から非難されても、制裁は受けないとの見通しがあるようだが、それは大国の傲慢だ。
こんな感じである。朝日の媚中に不満を抱く国民も、これなら満足するのではないか。
■朝日の中国批判に見られる巧妙な仕掛け
しかし朝日の中国批判には、しばしば巧妙な仕掛けが見られる。批判すると同時に、さりげなく擁護も行おうとするのだ。
そこで今回の社説を丹念に読むと、果たして仕掛けは見つかった。
散々中国を非難した後に、次のように書いているではないか。
―――中国の動きを受け、東南アジア各国が海軍力の強化に動いているのも心配だ。フィリピンは実効支配する島で軍事基地を強化し、ベトナムも岩礁の埋め立てをしていると伝えられる。
―――中国を牽制する米軍の行動も緊張を高めかねない。
いつもながらの喧嘩両成敗である。両成敗した分だけ中国の罪を軽減する印象操作のトリックである。
たとえば「東南アジア各国が海軍力の強化に動いている」のに懸念を表明するのがそれだ。
軍拡競争に陥って「緊張を高めかねない」とのお決まりの理屈からだが、それは被害者に「自分の身を守るな」と要求するようなもので、加害者の耳には心地いい。
ちなみに産経新聞は「フィリピンが抵抗をあきらめ、南シナ海での中国の軍事的影響力が強まれば、日本にとり、安全保障上も経済上も極めて深刻な事態となる」(六月五日、社説)と指摘するが、まさにその通りだ。

埋め立て工事が進むファイナリクロス礁。こうした動きに各国は抵抗しなくていいのか
■抑止力を否定―真の狙いは中国批判より米国牽制
そして何より聞き捨てならないのは、「中国を牽制する米軍の行動も緊張を高めかねない」との警告だ。
フィリピンのアキノ大統領は三日、都内での講演で「もし力の空白が生じ、大国の米国が『関心がない』といえば、他の国の野心を食い止めるものはない」(産経)と述べたが、それはそのまま朝日への反論になる。

都内で中国の動きに警鐘を鳴らしたアキノ大統領。その発言は朝日への反論
にもなる
しかし朝日が米軍の中国に対する「牽制」(抑止力)が、アジア太平洋地域の平和秩序を維持している現実を理解していないわけがない。
要するにそれを知りながら、いつもながらに理屈抜きの米国批判(すなわち中国擁護)を、物のついでを装うかのように挿入したわけだ。
これだけで立派な中国擁護となる。本気で中国の「野心を食い止める」気持ちはないかに見える。
したがって、朝日がこの社説を掲げる真の目的も、実は「米軍は中国を牽制するな」と訴えることあるのではないか。
それであれば、中国も納得してくれるはずである。そもそも露骨な中国擁護の中での米国批判より、今回のような中国批判の中での米国批判の方が日本国民には説得力がある。日米同盟の弱体化、解体を何より望む中国は、そう考えているはずだ。
■なぜ台湾・馬英九総統の提案に飛びつくのか
このように社説は、中国には「埋め立てを即刻中止を」と呼び掛ける一方で、東南アジア各国には「海軍力を強化するな」、米軍には「中国を牽制するな」と訴えるのだが、それでは双方に何をしろと求めているのか。
それについては最後にこう書くのだ。
「南シナ海を穏やかな海に戻す努力をすぐに始めなければ、事態は悪化するばかりだ」と。
では、どのような「努力」を始めるべきだというのか。社説はそのモデルとして、台湾の馬英九政権の最近の動きを挙げている。
―――この海域で実効支配する島を持つ台湾は最近、領有権争いの棚上げと、資源の共同開発などを提案した。中国との関係で国際協議に加われない立場ではあるが、傾聴に値する。
これは馬英九総統が先頃表明した「南支那海イニシアチブ」なる平和構想のことだが、中国が「領有権争いの棚上げ」などするものか。
朝日自身が五月二十六日に配信したロイターの記事も、「中国側が台湾の提案を受け入れる可能性は低いとみられる」と指摘しているではないか。

現実味なき「南支那海イニシアチブ」を発表した馬英九総統。この中国の傀儡の提案に朝日が
飛びついた
■朝日は決して中国に背かない
たしかに中国は日本に対し、尖閣諸島の「領有権争いの棚上げ」や「資源の共同開発」を求めているが、それは目下、尖閣諸島を奪取するには条件が整っていないため、「主権棚上げ・共同開発」を通じて占領の機会をうかがおうという戦略である。
それに対してスプラトリー諸島では、すでに中国の支配が強化されつつある。中国が「領有権争いの棚上げ」の提案に応じることなど考えられないというのは、そういう理由だ。
そもそも馬英九政権は中国に対し、台湾の国家主権すら売り渡しかねないほどの従属姿勢だ。南支那海の領有権問題でも、中国と対峙する気などさらさらない。
そこでその代わりに打ち出して見せたのが、「南支那海イニシアチブ」なる現実味なき構想なのだ。
もちろんそれは中国にとって痛くも痒くもなく、むしろ中国との摩擦を避ける傀儡のような馬英九政権に目を細めている。
そんな馬英九政権に朝日が共鳴するのは、同じ穴の狢だからに違いない。
それぞれともに中国を「平和を熱愛する」国家として期待し(期待するふりをし)、それぞれの国の国民から中国への警戒心を奪おうとするところなどそっくりである。
いずれもすっかり中国の影響下に陥っているということだ。だから朝日にしてもまた、中国の意に背くことはしない。
中国が覇権主義的姿勢を強めれば強めるほど、それに迎合する朝日の報道トリックに警戒しなければならない。
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中国の南支那海での人工島建設を批判する六月二日の朝日新聞の社説「南シナ海問題 中国は埋め立て中止を」を読んだ。
近年、中国の覇権主義的な動きにしばしば非難の声を挙げる朝日だが、往年の媚中に徹した論調を思えば、「変わったな」と感じるのである。

もっとも朝日が「変わった」の原因は、中国にある。
鄧小平時代以降、「養光韜晦」(力を蓄えるまでは爪を隠す)との戦略を継続する間、朝日は中国の意に沿うように「中国脅威論」を否定する論調を堅持し、あの国の「永遠に覇を唱えず、永遠に覇を争わず」「平和を熱愛する」との宣伝を代弁し、「日中友好」(日本の中国への従属)を叫び続けていたのだが、その後、そうもいかなくなった。
なぜなら現在、習近平体制はすでに「養光韜晦」を放棄して拡張の野心を剥き出しにするばかりで、それに伴い国民の中国への警戒心や、朝日の媚中姿勢への批判の声も従来になく高まっており、もはやあの国の野心を隠蔽することは難しくなったためだ。
簡単に言えば、最早公然と中国を擁護できなくなり、批判的な姿勢を見せざるを得なくなっているわけだ。
■中国の人口島建設に痛烈な批判を加える朝日だが
今回にしても、中国の孫建国副総参謀長がアジア安全保障会議で、スプラトリー諸島での岩礁の埋め立て工事は軍事目的だと認める発言をしたのを受け、それに批判を加えないわけには行かなくなったのだろう。

南支那海での人口島建設が軍事目的と認めた孫建国副総参謀長。これを受け朝日も批判
せざるを得なくなった
下記のように、なかなか痛烈である。
―――全く容認できない発言である。この海域の岩礁は近隣国が領有権をめぐり争っている。力による一方的な既成事実化は明らかに国際ルールに反する。埋め立てを即刻中止すべきだ。
―――ファイアリークロス礁と呼ばれる環礁では、埋め立てによる滑走路が姿を現し、スプラトリーで最大の面積になろうとしている。これらを拠点に防空識別圏を設ける可能性がある。
―――中国政府が先週発表した国防白書は、陸軍よりも海軍に重点を置くとする海洋重視戦略を明確に掲げた。孫氏の発言はその線に沿ったものだ。
―――南シナ海への進出には、漁業資源や海底資源の確保に加え、重要海路を支配する軍事力を確立する狙いがあるとみられる。
―――他国から非難されても、制裁は受けないとの見通しがあるようだが、それは大国の傲慢だ。
こんな感じである。朝日の媚中に不満を抱く国民も、これなら満足するのではないか。
■朝日の中国批判に見られる巧妙な仕掛け
しかし朝日の中国批判には、しばしば巧妙な仕掛けが見られる。批判すると同時に、さりげなく擁護も行おうとするのだ。
そこで今回の社説を丹念に読むと、果たして仕掛けは見つかった。
散々中国を非難した後に、次のように書いているではないか。
―――中国の動きを受け、東南アジア各国が海軍力の強化に動いているのも心配だ。フィリピンは実効支配する島で軍事基地を強化し、ベトナムも岩礁の埋め立てをしていると伝えられる。
―――中国を牽制する米軍の行動も緊張を高めかねない。
いつもながらの喧嘩両成敗である。両成敗した分だけ中国の罪を軽減する印象操作のトリックである。
たとえば「東南アジア各国が海軍力の強化に動いている」のに懸念を表明するのがそれだ。
軍拡競争に陥って「緊張を高めかねない」とのお決まりの理屈からだが、それは被害者に「自分の身を守るな」と要求するようなもので、加害者の耳には心地いい。
ちなみに産経新聞は「フィリピンが抵抗をあきらめ、南シナ海での中国の軍事的影響力が強まれば、日本にとり、安全保障上も経済上も極めて深刻な事態となる」(六月五日、社説)と指摘するが、まさにその通りだ。

埋め立て工事が進むファイナリクロス礁。こうした動きに各国は抵抗しなくていいのか
■抑止力を否定―真の狙いは中国批判より米国牽制
そして何より聞き捨てならないのは、「中国を牽制する米軍の行動も緊張を高めかねない」との警告だ。
フィリピンのアキノ大統領は三日、都内での講演で「もし力の空白が生じ、大国の米国が『関心がない』といえば、他の国の野心を食い止めるものはない」(産経)と述べたが、それはそのまま朝日への反論になる。

都内で中国の動きに警鐘を鳴らしたアキノ大統領。その発言は朝日への反論
にもなる
しかし朝日が米軍の中国に対する「牽制」(抑止力)が、アジア太平洋地域の平和秩序を維持している現実を理解していないわけがない。
要するにそれを知りながら、いつもながらに理屈抜きの米国批判(すなわち中国擁護)を、物のついでを装うかのように挿入したわけだ。
これだけで立派な中国擁護となる。本気で中国の「野心を食い止める」気持ちはないかに見える。
したがって、朝日がこの社説を掲げる真の目的も、実は「米軍は中国を牽制するな」と訴えることあるのではないか。
それであれば、中国も納得してくれるはずである。そもそも露骨な中国擁護の中での米国批判より、今回のような中国批判の中での米国批判の方が日本国民には説得力がある。日米同盟の弱体化、解体を何より望む中国は、そう考えているはずだ。
■なぜ台湾・馬英九総統の提案に飛びつくのか
このように社説は、中国には「埋め立てを即刻中止を」と呼び掛ける一方で、東南アジア各国には「海軍力を強化するな」、米軍には「中国を牽制するな」と訴えるのだが、それでは双方に何をしろと求めているのか。
それについては最後にこう書くのだ。
「南シナ海を穏やかな海に戻す努力をすぐに始めなければ、事態は悪化するばかりだ」と。
では、どのような「努力」を始めるべきだというのか。社説はそのモデルとして、台湾の馬英九政権の最近の動きを挙げている。
―――この海域で実効支配する島を持つ台湾は最近、領有権争いの棚上げと、資源の共同開発などを提案した。中国との関係で国際協議に加われない立場ではあるが、傾聴に値する。
これは馬英九総統が先頃表明した「南支那海イニシアチブ」なる平和構想のことだが、中国が「領有権争いの棚上げ」などするものか。
朝日自身が五月二十六日に配信したロイターの記事も、「中国側が台湾の提案を受け入れる可能性は低いとみられる」と指摘しているではないか。

現実味なき「南支那海イニシアチブ」を発表した馬英九総統。この中国の傀儡の提案に朝日が
飛びついた
■朝日は決して中国に背かない
たしかに中国は日本に対し、尖閣諸島の「領有権争いの棚上げ」や「資源の共同開発」を求めているが、それは目下、尖閣諸島を奪取するには条件が整っていないため、「主権棚上げ・共同開発」を通じて占領の機会をうかがおうという戦略である。
それに対してスプラトリー諸島では、すでに中国の支配が強化されつつある。中国が「領有権争いの棚上げ」の提案に応じることなど考えられないというのは、そういう理由だ。
そもそも馬英九政権は中国に対し、台湾の国家主権すら売り渡しかねないほどの従属姿勢だ。南支那海の領有権問題でも、中国と対峙する気などさらさらない。
そこでその代わりに打ち出して見せたのが、「南支那海イニシアチブ」なる現実味なき構想なのだ。
もちろんそれは中国にとって痛くも痒くもなく、むしろ中国との摩擦を避ける傀儡のような馬英九政権に目を細めている。
そんな馬英九政権に朝日が共鳴するのは、同じ穴の狢だからに違いない。
それぞれともに中国を「平和を熱愛する」国家として期待し(期待するふりをし)、それぞれの国の国民から中国への警戒心を奪おうとするところなどそっくりである。
いずれもすっかり中国の影響下に陥っているということだ。だから朝日にしてもまた、中国の意に背くことはしない。
中国が覇権主義的姿勢を強めれば強めるほど、それに迎合する朝日の報道トリックに警戒しなければならない。
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