今後悪用される日中合意文書―72年「日中共同声明」の二の舞いか
2014/11/10/Mon
■すでに始まっている中国の文書歪曲の宣伝
安倍晋三首相は十一月十日、北京で中国の習近平主席と会談した。

これまで中国側は首脳会談を行う条件として、尖閣諸島を巡り「領有権問題はない」(日本の支配に瑕疵はない)との立場を崩さない日本側が「主権に関して争議がある」(領有権問題はある)」ことを認めることを上げて譲らなかったが、それでも会談が実現したのは、この問題で一つの合意がなされたからだ。
七日に発表された「日中関係の改善に向けた話し合いについて」と題する両国の合意文書には次のようにある。


「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」
つまり日本側は日中間で「争議があると認める」とはせず、「緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」とするにとどめたわけだ。
これについて日本では政府もメディアも、日本側は従来の立場を変えなかったと自賛する。しかし「異なる見解を有している」との表明は、あたかも日本政府が「争議の存在」を認めたかの印象を内外にもたらすではないか。
実際に中国はすでに、そうした印象を拡散する宣伝工作を開始している。
■共同声明の発表は中国の常套手段
「会談前にこうした文書が発表されるのは異例だ」(朝日新聞)ともされるが、実際にはこうした他国との共同声明の発表は中国の好む常套手段である。
たとえば一九七二年に日中が国交を結んだ際の日中共同声明などはそうだ。当時日中間で最大の対立点になっていたのが台湾問題に関してだ。日本に台湾を中国領土との虚構を承認させたい中国と、虚構を承認できない日本が対立したのだ。その時日本は、国交樹立を急ぐあまり、共同声明において一つの譲歩を行った。

72年の日中共同声明全文を人民日報の一面トップで報じた中
国。対日優位外交の始まりだった
中国側が「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」と書き込んだのに対し、日本は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると書いたのだ。
ここで日本が表明したのは、あくまでも中国の「立場」を「理解し尊重する」というもので、台湾の帰属先に触れるものではなかった。
しかしこの一文を読む限り、あたかも日本政府が「台湾は中国の領土の不可分の一部である」と承認したとの印象を受けざるを得ない。もちろん中国政府も、日本がまるで承認したかのような宣伝を行ってきた。
■進んで中国の罠に掛りたがる日本
要するに共同声明は中国側の罠だったのだ。そして日本は今回、再び同じ罠にはまったわけだ。これまでの経験から、罠であるとは知っていたはずだ。だが中国との緊張に耐えかねて、首脳会談を実現させたい一心で、進んで罠に掛ったのである。
中国がこうした共同声明の発表を好むのは、自国に都合の良いように相手国を縛り付ける効果がそれにあるからだ。まるでヤクザが後日の脅迫目的で相手か取る念書のようなものである。
日本政府はそれ以降、台湾との交流を厳しく自粛しなくてはならなくなった。中国の立場を「理解し尊重する」などと誓約してしまったがために。
中国はその後も同じ内容の「念書」を日本に求めている。
たとえば一九七九年の日中平和条約がそれだ。「(一九七二年の)共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことを確認」したと強調されている。
ちなみにここで「原則」とは、中国が相手国を縛り付けるために用いる言葉である。
一九九八年の日中共同宣言も「念書」だ。「日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識を表明する」などと書かされている。
「改めて中国は一つであるとの認識を表明する」との文言が付されているのにも注意したい。これは七二年の共同声明で「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」との誓約の再表明だ。
これはあくまでも「中国政府への承認」の話であって台湾の帰属問題とは無関係なのだが、「中国は一つであるとの認識を表明する」との表現を使わされれば「中国と台湾は一つの国」であると日本が認識しているかのような印象を受ける。
二〇〇八年の日中共同声明も同様である。そこには「台湾問題に関し、日本側は、日中共同声明において表明した立場を引き続き堅持する旨改めて表明した」とある。
中国がなぜこのように日本側に何度も何度も同じ誓約を強要するかと言えば、日本を縛る綱を更に締め付けるためである。
■「四つの文書」はヤクザが付き付ける念書の如し
そしてそればかりではない。中国は以上の日中共同声明、日中平和友好条約、日中共同声明、日中共同声明(〇八年)を中国は「四つの政治文書」とまで呼んで重みを加え、これを遵守せよと日本に要求するのだ。

日本人にはあまり聞きなれない「四つの(政治)文書」だが、実は中国は絶え
ずこれを振りかざし日本に外交上の譲歩を要求している。
たとえば七月、自民党の「日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会」が日台関係強化の法的根拠となる「日本版・台湾関係法」の策定を目指す意向を示しただけで、中国外交部はこう反発した。
「断固として反対し、日本側に中日共同声明など四つの政治文書の原則を切実に遵守し、慎重かつ妥当に台湾関係の問題を処理するよう要求する」
四枚もの「念書」を突き付けられれば、日本側はますます異論、反論などできなくなる。こうした手口はヤクザの心理術のようなもので、一種のマインドコントロールと言える。
ちなみに今回の合意文書でも、「双方は、日中間の四つの基本文書(中国語では「政治文書」)の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」との項目が、中国側によってしっかりと組み込まれている。
おそらくこの合意文書は今後、五つ目の文書とされるのではないだろうか。日本は領土問題の存在を認めた証文として振り回されそうだ。
■弱腰政府は中国の攻勢にいつまで耐えられる
今回の合意文書で日本は「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」すると表明したが、この「認識」との言葉は今後中国によって悪用されそうだ。
台湾問題において日本は「四つの文書」に縛られているが、実は米国もそれと同じように七二年の上海共同コミュニケ、七八年の米中国交樹立に関する共同コミュニケ、八二年の八・一七共同コミュニケという「三つの共同コミュニケ」で縛られている。
日本は「台湾は中国の一部であるとする中国の立場を理解し尊重する」と表明したわけだが、米国は七八年の共同コミュニケで「台湾は中国の一部であるとする中国の立場を認識する」と表明した。これは「中国の立場はそう言うものであるということを認識する」という意味に過ぎないわけだが、中国は共同コミュニケの中国語版で「認識する」を「承認する」と書き換え、米国が「台湾は中国の一部と承認した」との宣伝を行った。
たとえば二〇〇〇年に国際社会に対して発表した「台湾問題と中国の統一」(台湾白書)では、その日本語版に次のように書いている。
「一九七八年十二月、中米両国は国交樹立コミュニケを発表し、アメリカは…『中国の立場、すなわち中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であることを認める』と表明した」
「アメリカは台湾は中国の一部であることを認める」というウソを堂々と書いているではないか。これが中国の情報操作、宣伝工作というものである。
今回日本は「異なる見解を有していると認識」すると述べたが、これからは「『異なる見解がある』と認めた」と宣伝されることだろう。「争議があると認めた」という意味で。
いずれにせよ、今後日本は台湾問題と同様に尖閣諸島問題においても、中国のペースに乗せられて行くのだろうか。今回の日本側の中国への譲歩、迎合の様を見る限り、これからあの国の攻勢にどこまで耐えられるかと不安になるのである。
【過去の関連記事】
「尖閣」で安倍首相は僅かな妥協も禁物!-知るべき中国の宣伝の手口 14/10/21
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2444.html
日中合意文書は日本外交の敗北―ヤクザ国家に足元を見られ 14/11/08
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2455.html
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安倍晋三首相は十一月十日、北京で中国の習近平主席と会談した。

これまで中国側は首脳会談を行う条件として、尖閣諸島を巡り「領有権問題はない」(日本の支配に瑕疵はない)との立場を崩さない日本側が「主権に関して争議がある」(領有権問題はある)」ことを認めることを上げて譲らなかったが、それでも会談が実現したのは、この問題で一つの合意がなされたからだ。
七日に発表された「日中関係の改善に向けた話し合いについて」と題する両国の合意文書には次のようにある。


「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」
つまり日本側は日中間で「争議があると認める」とはせず、「緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」とするにとどめたわけだ。
これについて日本では政府もメディアも、日本側は従来の立場を変えなかったと自賛する。しかし「異なる見解を有している」との表明は、あたかも日本政府が「争議の存在」を認めたかの印象を内外にもたらすではないか。
実際に中国はすでに、そうした印象を拡散する宣伝工作を開始している。
■共同声明の発表は中国の常套手段
「会談前にこうした文書が発表されるのは異例だ」(朝日新聞)ともされるが、実際にはこうした他国との共同声明の発表は中国の好む常套手段である。
たとえば一九七二年に日中が国交を結んだ際の日中共同声明などはそうだ。当時日中間で最大の対立点になっていたのが台湾問題に関してだ。日本に台湾を中国領土との虚構を承認させたい中国と、虚構を承認できない日本が対立したのだ。その時日本は、国交樹立を急ぐあまり、共同声明において一つの譲歩を行った。

72年の日中共同声明全文を人民日報の一面トップで報じた中
国。対日優位外交の始まりだった
中国側が「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」と書き込んだのに対し、日本は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると書いたのだ。
ここで日本が表明したのは、あくまでも中国の「立場」を「理解し尊重する」というもので、台湾の帰属先に触れるものではなかった。
しかしこの一文を読む限り、あたかも日本政府が「台湾は中国の領土の不可分の一部である」と承認したとの印象を受けざるを得ない。もちろん中国政府も、日本がまるで承認したかのような宣伝を行ってきた。
■進んで中国の罠に掛りたがる日本
要するに共同声明は中国側の罠だったのだ。そして日本は今回、再び同じ罠にはまったわけだ。これまでの経験から、罠であるとは知っていたはずだ。だが中国との緊張に耐えかねて、首脳会談を実現させたい一心で、進んで罠に掛ったのである。
中国がこうした共同声明の発表を好むのは、自国に都合の良いように相手国を縛り付ける効果がそれにあるからだ。まるでヤクザが後日の脅迫目的で相手か取る念書のようなものである。
日本政府はそれ以降、台湾との交流を厳しく自粛しなくてはならなくなった。中国の立場を「理解し尊重する」などと誓約してしまったがために。
中国はその後も同じ内容の「念書」を日本に求めている。
たとえば一九七九年の日中平和条約がそれだ。「(一九七二年の)共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことを確認」したと強調されている。
ちなみにここで「原則」とは、中国が相手国を縛り付けるために用いる言葉である。
一九九八年の日中共同宣言も「念書」だ。「日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識を表明する」などと書かされている。
「改めて中国は一つであるとの認識を表明する」との文言が付されているのにも注意したい。これは七二年の共同声明で「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」との誓約の再表明だ。
これはあくまでも「中国政府への承認」の話であって台湾の帰属問題とは無関係なのだが、「中国は一つであるとの認識を表明する」との表現を使わされれば「中国と台湾は一つの国」であると日本が認識しているかのような印象を受ける。
二〇〇八年の日中共同声明も同様である。そこには「台湾問題に関し、日本側は、日中共同声明において表明した立場を引き続き堅持する旨改めて表明した」とある。
中国がなぜこのように日本側に何度も何度も同じ誓約を強要するかと言えば、日本を縛る綱を更に締め付けるためである。
■「四つの文書」はヤクザが付き付ける念書の如し
そしてそればかりではない。中国は以上の日中共同声明、日中平和友好条約、日中共同声明、日中共同声明(〇八年)を中国は「四つの政治文書」とまで呼んで重みを加え、これを遵守せよと日本に要求するのだ。

日本人にはあまり聞きなれない「四つの(政治)文書」だが、実は中国は絶え
ずこれを振りかざし日本に外交上の譲歩を要求している。
たとえば七月、自民党の「日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会」が日台関係強化の法的根拠となる「日本版・台湾関係法」の策定を目指す意向を示しただけで、中国外交部はこう反発した。
「断固として反対し、日本側に中日共同声明など四つの政治文書の原則を切実に遵守し、慎重かつ妥当に台湾関係の問題を処理するよう要求する」
四枚もの「念書」を突き付けられれば、日本側はますます異論、反論などできなくなる。こうした手口はヤクザの心理術のようなもので、一種のマインドコントロールと言える。
ちなみに今回の合意文書でも、「双方は、日中間の四つの基本文書(中国語では「政治文書」)の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」との項目が、中国側によってしっかりと組み込まれている。
おそらくこの合意文書は今後、五つ目の文書とされるのではないだろうか。日本は領土問題の存在を認めた証文として振り回されそうだ。
■弱腰政府は中国の攻勢にいつまで耐えられる
今回の合意文書で日本は「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」すると表明したが、この「認識」との言葉は今後中国によって悪用されそうだ。
台湾問題において日本は「四つの文書」に縛られているが、実は米国もそれと同じように七二年の上海共同コミュニケ、七八年の米中国交樹立に関する共同コミュニケ、八二年の八・一七共同コミュニケという「三つの共同コミュニケ」で縛られている。
日本は「台湾は中国の一部であるとする中国の立場を理解し尊重する」と表明したわけだが、米国は七八年の共同コミュニケで「台湾は中国の一部であるとする中国の立場を認識する」と表明した。これは「中国の立場はそう言うものであるということを認識する」という意味に過ぎないわけだが、中国は共同コミュニケの中国語版で「認識する」を「承認する」と書き換え、米国が「台湾は中国の一部と承認した」との宣伝を行った。
たとえば二〇〇〇年に国際社会に対して発表した「台湾問題と中国の統一」(台湾白書)では、その日本語版に次のように書いている。
「一九七八年十二月、中米両国は国交樹立コミュニケを発表し、アメリカは…『中国の立場、すなわち中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であることを認める』と表明した」
「アメリカは台湾は中国の一部であることを認める」というウソを堂々と書いているではないか。これが中国の情報操作、宣伝工作というものである。
今回日本は「異なる見解を有していると認識」すると述べたが、これからは「『異なる見解がある』と認めた」と宣伝されることだろう。「争議があると認めた」という意味で。
いずれにせよ、今後日本は台湾問題と同様に尖閣諸島問題においても、中国のペースに乗せられて行くのだろうか。今回の日本側の中国への譲歩、迎合の様を見る限り、これからあの国の攻勢にどこまで耐えられるかと不安になるのである。
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「尖閣」で安倍首相は僅かな妥協も禁物!-知るべき中国の宣伝の手口 14/10/21
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日中合意文書は日本外交の敗北―ヤクザ国家に足元を見られ 14/11/08
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-2455.html
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