産経が台湾に言うべきことか/統一地方選挙での民進党勝利に関し
2014/12/03/Wed
■国民党の敗因は性急な対中接近
台湾では十一月二十九日、次の総統選挙の前哨戦として注目された統一地方選挙の投開票が行われ、国民党が大敗し、民進党が大躍進を遂げた。
二十二の県・市長選で国民党は、これまでの十五から六へと減り、民進党は六から十三へと増加した。最も注目された台北など六つの直轄市長選挙でも、国民党は四から一へ。それに対して首都台北では無所属で民進党寄りの柯文哲氏が当選。その他の四市でも同党候補が勝利した。

次期総統選の前哨戦と言える二十二県市の首長選では「緑」(民進党)勢力が拡大し、
「青」(国民党)を圧倒した。これが意味するものとは
国民党の敗北の原因は何か。十二月三日の産経新聞の社説は「2008年に発足した馬政権があまりに性急に進めてきた対中接近政策が受け入れられなかったことにある」という。
台湾最大手紙である自由時報も一日の社説で、同じような分析を見せた。
―――国民党の敗因は、それが最も得意とする経済カードだった。
―――国民党は経済問題で中国統一のイデオロギーを包み隠し、「台湾は貿易立国であり、鎖国をせずに開放を行い、世界経済と連結すべきだ」と絶えず宣伝してきた。しかし馬英九政権の実際の行いを見ると、それは中国傾斜のシナリオに過ぎず、「開放」なるものも実質的には中国との経済貿易協定に調印し、台湾経済を中国の縛り付けることだった。
―――しかし多くの国民はグローバル化と中国化との区別が付かず、これまでの選挙では国民党の宣伝に迷わされ、民進党のイデオロギーや鎖国姿勢では台湾の経済は打目になると思い込んでしまった。
―――馬英九が寝ても覚めても唱える「開放」とは中国傾斜の代名詞。彼が推進する政策は台湾経済を立て直していないばかりか、逆に民衆の生活を苦しくし、特に若者には未来への希望を奪っている。中国傾斜政策の犠牲者に青(国民党支持者)も緑(民進党など本土派)の違いはない。中産階級であれ貧窮層であれ、みな転落している。
―――この政策によって国内では格差が広がった。多くが貧窮に喘いでいるというのに、中国傾斜という経済カードで勝てると思ったのか。
■狼狽する中国の虚勢プロパガンダ
今回の選挙結果を中国はどう見ているのだろうか。
中共機関紙人民日報系の環球時報や国営新華社は論評を掲げ、「国民党の敗北に対して西側のメディアは『馬英九の両岸政策に対する不同意投票』『台湾・大陸関係に関する住民投票』と看做している」ことに反論している。
曰く、
―――島内(※台湾を指す)の評論家である趙少康、唐湘龍らは、そうした見方に極めて反対だ。彼らは「両岸政策は馬英九の政策で最も成功しているのは両岸の和解。圧倒的多数の台湾民衆は両岸間で戦争の危険はなくなったと認識している。民進党が政権を取っても台湾独立を主張して戦争を惹き起すことはない。今回の選挙結果が両岸貿易に大きな影響を及ぼすことはない」と語っている。
「馬政権が性急に進めてきた対中接近政策」を台湾の有権者は支持していると、中国側は強弁したいようだ。ちなみにこの趙少康と唐湘龍は、中国べったりの言論で知られる統一派で、良識ある台湾国民からはそっぽを向かれている。
このように虚勢を張る中国。あきらかに狼狽している。
■台湾の有権者までは取り込めない中国
台湾の平和統一を国家目標に掲げるあの国はこれまで、台湾の国民党や大企業を利益誘導で取り込み、それらを通じて台湾に影響力を伸張させるとの戦略を行使してきた。馬英九政権の「経済カード」(性急な対中接近政策)の行使など、まさにそれに呼応するものだった。
しかし今回、台湾の有権者は、それにノーを突きつけたのだから、穏やかでいられるはずがない。
中国政府は国民党の大敗を受け、直ちに次の声明を出している。
「我々は今回の選挙結果に注目している。両岸同胞がせっかくの両岸関係の成果を大切にし、ともに両岸関係の平和的発展の維持と推進継続を行うことを希望する」(国務院台湾事務弁公室)
要するに、やがては政権を奪還するかも知れない民進党に対し、「対中接近政策」を維持せよとの訴えているのだ。同党への取り込み狙いとも言えるし、「せっかくの両岸関係の平和的発展」を無にするなとの恫喝とも受け取れる。
だがそうした取り込みは、仮に民進党には行い得ても、一般国民に及ぼすことは困難だ。
前掲の産経の社説は、今回の選挙結果の社会的背景を次のように説明する。
―――馬政権が自由貿易協定(FTA)にあたる「経済協力枠組み協定」(ECFA)を締結し、中国とのサービス貿易自由化の協定批准を急いだことなどで、台湾社会に、経済的に中国にのみ込まれてしまうとの懸念が一気に広がった。
国民の多くが「対中接近」という名の中国への不条理な経済的依存、政治的従属に不安を抱いているのである。このことを中国は今回はっきりと思い知らされた。そのため「我々は今回の選挙結果に注目している」とコメントするのが精いっぱいだったわけである。
■産経社説のアピールに「蛇足」あり
こうした情勢を受け、産経社説は次のようにアピールしている。
―――馬政権の任期は1年余りを残す。民主的な選挙で示された台湾の人々の懸念に、最大限、配慮した政策へと軌道修正を図らなければならない。
有権者の意思を尊重すべきだとの訴えであり、もっともなことだ。
しかしその一方で、気になる主張も行っている。
―――両岸関係の安定は、微妙なバランスの上に成り立つ。台湾が中国に寄りすぎれば中国の統一攻勢に引き込まれ、独立に傾けば緊張が高まることにつながる。
―――台湾住民のほぼ8割は、台湾の「現状維持」を望んでいる。
―――台湾の繁栄と地域の安定には経済、安全保障の両面で均衡が不可欠だ。日米を含む国際社会の現実的な利益もまさにそこにある。
これもまた、民進党が政権を取ることを視野に入れてのアピールなのだろう。
しかし蛇足ではないか。
■台湾の有権者に対して傲慢ではないか
台湾で盛んに行われる世論調査に「独立すべきか、統一すべきか」というものがあり、つねに「現状維持」との回答が「独立」「統一」を上回っている。
「独立」が「『一つの中国』を掲げる中華民国体制からの脱却」であるのに対し、「現状維持」とは「中華民国体制を維持する」というものだ。
最近は「独立」支持者の増加に伴い、「現状維持」との回答は減少傾向にあり、産経のいう「8割」とはやや古い数値だ。しかしそれでも依然として、六割前後もが「現状維持」を支持しているのは確かである。
ただその六割の全てが「独立」を嫌っている、あるいは[現状維持]に満足しているわけではない。
たとえば昨年十月、親中的なテレビ局TVBSが公表した調査結果を見てみよう。そこでも「現状維持」は六四%に達したが(「独立」は二四%)、「独立」か「統一」かとの二者択一の設問では実に七一%もが「独立」と答えているのだ。
要するに「独立に傾けば緊張が高まる」(中国を刺激する)のを恐れ、不本意ながら「現状維持」と答える人々が多数存在するということなのだ。
それはそうだろう。多くは自国が「中国とは別個の独立国家」となり、それを国際社会に求めてもらいたいと願っている。そしてそうした思いが今回の選挙結果にも大きく反映されたわけだ。
台湾が独立しないことは「日米を含む国際社会の現実的な利益」にかなうとあの国に訴える産経だが、そうした民意にどれだけ配慮しているのか。台湾人の立場に立って聞けば、傲慢さを感じざるを得ない。
■思い出される福田康夫首相の愚行
台湾が中国を刺激しないことは「日米を含む国際社会の現実的な利益」に適うのは確かだろう。しかしそれを日本がそれを口にするのは、台湾に対して傲慢であるだけでなく、中国をさらに助長する恐れもあるのである。
たとえば民進党政権が二〇〇八年に台湾の国連加盟の可否を問う住民投票を実施しようとした時のことだ。
住民投票という民主的な手続きを通じ、「台湾国民が台湾を国連に加盟する資格を持つ独立国家であると認識している事実」が国際社会に伝われば、それは独立宣言に等しいと看做した中国は激怒し、世界各国に圧力をかけ、「反対」「不支持」を表明させるという手に出た。
こうした台湾への内政干渉、台湾の民主主義潰しに、何と百数十カ国もが呼応した。そして最もそれに協力したのが「現実的な利益」を重視した米国で、たびたびにわたって「反対」を表明した。
ところが日本では、当時の安倍晋三政権はノーコメントを貫いた。中国に宣伝利用されることを拒否したのだ。
しかしその後、福田康夫政権が発足。福田首相は訪中し、温家宝首相との共同記者会見の場で、一転して「不支持」を表明してしまった。「台湾の公民投票を巡って緊張が高まることは望んでいない」としてだ。
しかも「台湾独立は支持しない」とまで付けくわえた。この時福田首相は台湾を批判しながら、実際には一方的に緊張を高める中国には一言の批判も行っていない。
これを受け温家宝首相は、敢えて「不支持」を「反対」と言い換え、「日本側の台湾独立に反対する立場を評価する」との捏造宣伝を行い、台湾に大きな圧力をかけることに成功している。
産経の社説を読むと、あの日の福田首相の愚行が思い起こされる。
台湾の将来は台湾人が決めること。せめて今後はノーコメントを通すべきだろう。中国に宣伝利用され、あの国を増長させないこともまた、「国際社会の現実的な利益」に適うからである。
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